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第8話 告白②
「今、なんて?」と和樹は聞いた。
「ごめん。」
「そうじゃなくて、その前。」
「ごめん、忘れて。てか、聞かなかったことにして。」田崎の声は消え入りそうで、そして、かすかに震えているようだった。
「田崎?」和樹は田崎の横顔を見ていた。和樹が見ていることに気が付いているはずだが、かたくなにこちらを見ようとしない田崎。その横顔には表情らしい表情はなく、固まっていた。
そのままどれぐらい時間が経過したのか、わからない。ほんの数秒かもしれないし、もっと長かったかもしれない。和樹は田崎を見るのをやめた。自分が見ている限り、何も話してくれない気がしたのだ。そして、実際、和樹が床に視線を落とすと間もなく、田崎が口を開いた。「もう、会うことはないと思ったから、伝えたかった。それだけ。」
和樹はぼんやりと田崎の部屋を見渡した。余計な装飾のない部屋。本はジャンル別に整理され、脱ぎ散らかした洋服もない。雑多なものであふれている和樹の部屋とは大違いだ。それから極彩色の風景と、その中の濃紺の星空を思い出した。
田崎はこの部屋のようにシンプルで実用的で、でも、中身はあのイラストのように繊細で、美しい感情を宿していて、決して無神経な奴じゃない。部活をしていた時の田崎のことを思い出そうとした。そうだ、こいつは俺と違い、先輩や顧問の目を盗んで基礎練をサボるようなことをせず、最上級生になった時も下級生に対して威張ることをせず、淡々と毎日のメニューをこなすことで周りの信頼を得ている奴だった。水泳選手として抜群に速いわけではなかったが、その誠実さゆえに、二年の時には副部長に指名されもした。
「俺のことが、好きなの?」もっと気の利いた言い方ができないものかと自分を歯がゆく思いながら、直球で田崎に尋ねた。田崎の頬に少しだけ赤みがさした、気がした。
「うん。」
「それは、その、友達としてではなく、って意味で?」
「うん。」それはひどく短くて、「う」といううめき声ぐらいにしか聞こえなかった。
「なん……。いつ……。」なんで俺のことが好きなの。いつから俺のことが好きなの。それを聞いたところで、何と返せばいいのか。そう思うと、うまく話せない。
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