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第9話 告白③

 そう言われれば、部活の時によく目が合ったようにも思う。でも、そういう意味がこめられているなんて想像もしていなかった。部員は五十人以上いて、始終誰かを見ていたし、誰かに見られていたわけで、その中でも田崎と和樹は同じ平泳ぎを得意としていて、仲間であると同時にライバル関係でもあったから、ライバルのひとりとしてチェックを欠かさないのだろうと、そんな程度に思っていた。 「知らなかった。」 「だろうな。俺だって、悟られないように必死だった。」後半は田崎らしくもなく、若干吐き捨てるような言い方だった。「もうすぐ卒業だ。このまま黙っていればいいって思ってたんだ。そんな風に、都倉を困らせるって、わかっていたから。」そこまで一気に言うと、再び田崎は黙りこみ、自分のつま先を眺めるようにうなだれていた。和樹は返す言葉がなかった。こんな告白をされて、現に困ってもいた。「だから、ごめん。忘れてくれ。」田崎が言った。かすれ声だった。うなだれた姿勢のせいで、表情は前髪にさえぎられ全く見えない。 「いや、その……。」和樹は、自分が田崎を傷つけたことを確信していた。いくら玉砕覚悟でも、振られれば傷つく。今の自分は振った側だが、振られた経験だってあるからわかる。もちろん、振られた相手は女の子だったけれど。 「都倉、東京の大学に行くんだよな?」唐突な質問に戸惑いながらも、「ああ」とだけ答える。 「俺、卒業しても会える気がしていたんだよね。同窓会か部活のOB指導かわからないけど、どこかで会うだろうって。そういうのなくても、気軽に、それこそ漫画貸してやるついでに遊ぼうぜとか、そんな風に。だったら、それでいいやって思ってた。どうせ見ていることしかできないんだし。でも、東京の大学に決まったって聞いたら、なんか。」田崎は顔を覆った。  覆った手の間から、続きの言葉が漏れた。「もう会えないかもって思ったら、ダメだった。言わないでおくことが、できなくなってた。」田崎の声は震えていた。泣きそうなのをこらえているのか、それとも、既に泣いているのか。でも、そのどちらかなのは明らかだった。

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