14 / 67

第14話 告白⑧

 和樹は怒っている田崎の頬に右手を当てた。田崎の体がビクッと反応した。「目、つぶって。」何か言い返したそうな田崎だったが、結局、観念したように目を閉じた。和樹は頬の手を田崎の後頭部に滑らせ、自分の側に引き寄せて、口づけた。クールな印象を与える薄い唇だと思ったけど、重ねてみると、それはとても熱くて柔らかかった。「口、ちょっと開いて。」今度は素直に応じた。和樹も軽く口を開け、舌先を田崎の口の中に差し入れた。田崎の舌が触れた。その瞬間、田崎の体が硬直するのがわかった。それから、これが田崎にとっての、初めてのまともなキスだろうことも。  和樹が田崎から離れても、田崎は放心状態で、ただ立ち尽くしていた。 「俺、帰るわ。」和樹はかばんを手にした。「明日も来いよ、学校。絶対。」 「い、行かないよ。」 「どこか行くわけでもないんだろ。俺に会いづらいだけの話だろ。」 「だけって言うな。会いづらいに決まってるだろうが。それに、こ、こんなんされたら、余計に会いづらいっての。」田崎は真っ赤になって言う。可愛い。まずい、可愛いぞ、田崎。 「俺は会いたい。だから、来いよ。」 「馬鹿か。」田崎が切れ気味に言った。今日何回馬鹿呼ばわりされただろう。三年間同じ部活でライバル関係で、それでも一度も言われたことはなかったのに。  和樹は田崎家を出た。田崎は見送りに来てくれなかった。それどころか、二階から降りてくることすらなかった。念のためさっきまでいた二階の角部屋を見上げてみたが、カーテンが開けられる気配はなかった。

ともだちにシェアしよう!