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第15話 ファーストキス①

 自宅に戻ると着替えもせずにベッドに寝そべった。そして、結局件の漫画の新刊は一ページも読まずじまいだ。今となってはどうでもいいことだが。  天井を見上げた。ロックバンドのポスターが目に入る。  そういえば、このバンドのCDをあいつに貸したこともあった。悪くないね、他のも持っていたら貸して。あいつはそう言って、俺は持っている限りのそのバンドや、似たような系統のCDを貸した。あれも、俺との会話の口実だったのだろうか。それとも、同じ競技をして、好きな漫画が同じで、音楽の嗜好が似ていて……そういったことの積み重ねで、俺を意識するようになったのか。でも、いくら趣味が似ていても、男が男を好きになるってことには、ふつうはつながらないだろう。  『ふつうにできるんだったら、告白なんかしなかったんだよ。』  田崎の部屋で聞いたセリフ。そうだ。ふつうは、友達は友達だ。だからあいつは、あんなに苦しそうで。辛そうで。もう二度と会わない覚悟をしないと、好きと伝えることすらできなかった。  和樹は無意識に自分の唇を指先でなぞっていた。田崎の唇の感触を思い出す。柔らかくて、熱っぽい。田崎の舌先を思い出す。ほんのわずかに触れただけで、奥にひっこんでいた。硬直する身体と、赤く染まった頬。  田崎はファーストキスだったのは疑いないが、和樹のほうは初めてではない。中二の例の初恋は玉砕したものの、その後の恋愛は順調だった。中三になって急に背が伸び始めると同時にやたらとモテはじめて、以降、現在までにつきあった彼女は既に五人を数える。すべて相手からの告白でスタートしていた。和樹の名誉のために言っておくと二股かけたことはない。ただ、どの相手とも長続きはしなかった。交際期間は最長で半年、最短は一週間。

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