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第28話 涼矢①
「デートしよう。」
「は? 何、言ってるの?」
「このままだと、おまえも俺も、すっきりしないと思う。だから、デートしよう。その日は、おまえの好きなように過ごす。できる限り希望にこたえるから。それで、俺への、その、気持ちにけりをつけてほしい。」
「お情けでデートしてやるから、それでなかったことにしてくれ?」涼矢は口の端だけ上げ、投げやりに笑った。
「違うよ。そんなんじゃない。俺もだ。俺も、どうしていいかわからないんだよ。だから、これは俺のためでもあって……。それから、一日じゃなくていい。卒業まで、いや、俺が東京に行くまでの間なら、涼矢の気の済むまで、つきあうから。」
涼矢はじっと和樹を見た。和樹の真意を探るかのように。「本気で言ってるの、それ。」
「ああ。」
「俺とつきあってくれるの?」
「……期間限定だけど。」
「できる限り、希望にこたえてくれるって?」
「ああ。」
「どこまでできるの?」涼矢がベッドから立ち上がり、和樹の前に膝をつき、和樹の顔を下からうかがうように見つめた。髪を切ったせいで、昨日と違い、意外と長い睫毛までよく見える。和樹は涼矢の肩に手を置き、顔を寄せ、キスした。二度目となるとさほどの抵抗がない自分に内心驚く。
「このぐらい……。」
「それなら断る。」涼矢の上目使いに、ついドキッとする。涼矢はこんな色気のある顔をしてただろうか?
「きょ、今日は、その。とりあえずというか。」
「明日以降は、この先を期待してもいいんだ?」
「あ、いや、明日と明後日は東京に行くんだ。ごめん。だから来週。来週、がんばる。」妙に緊張して、うまくしゃべれない。というか、がんばるって、何をだ。焦る和樹の口元に、涼矢の指が伸びてきて、そっと触れた。でも、それ以上のことはなく、すぐに離した。
涼矢は「嘘だよ。そんなことしなくていい。」と言った。少し微笑んでいるようにも見えた。「一日だけ。一緒に映画観るとか、一緒に飯食うとか。そんなことでいい。」涼矢は和樹の右手をとり、壊れ物でも扱うように、自分の手をそっと重ねた。「一日だけ、俺にくれる?」
硬直して何も言えなくなったのは、和樹のほうだった。
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