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第33話 母と父と④

 宏樹も入れて四人での家族旅行に行ったことはあった。兄と二人で親戚の家に泊まりに行ったこともある。和樹が生まれる前やうんと小さい頃には、宏樹と両親という組み合わせもあっただろう。しかし、恵の言う通り、両親と和樹と言う組み合わせで行動したことはほとんどない。泊まりがけとなると、まさに初めてのことだった。そして、最後になる可能性も低くはないと思った。和樹と隆志は、恵の言い分を認め、三人で行動することを約束した。  翌日は恵を先頭に、若者のあふれかえる街を歩いた。和樹は、修学旅行と受験の二回だけ、東京に来たことがある。その時はスケジュールが詰まっていて、こんな風に目的地もなくふらふらと歩くことはなかった。人の多さには辟易したが、原宿も渋谷もテレビやネットを通して想像していたよりは「ふつう」だと思った。奇抜なファッションに身を包む人も多いが、同時に自分のような「ふつう」を受け容れてくれる街なのだと再確認する。 「あそこのお店、この間テレビで見たわ。二時間も並ぶんですって。」恵がカフェを指差した。その先の行列は確かに長くのびているが、誰も不満そうな顔はしていない。カップルやグループで和気あいあいとおしゃべりに興じている。「好きな彼とだったら二時間待つのも苦にならないのよね。」と恵が笑った。「お父さんとじゃ、とても待てないけどね。」 「聞き捨てならないなあ。」と隆志も笑った。「もっとも、俺は昔から待つのは苦手だからな。しゃべるのも。」 「そうね、あなたが誘ってくれると言うと、映画か、プラネタリウム。並んだりしゃべったりしなくていいところばかりだった。」 「バレてたか。」 「当然よ。プラネタリウムの時はひどかったわ、あなた、いびきかいて寝るんだもの。恥ずかしいったら。」 「疲れていたんだよ、あの頃は一番忙しかったからなあ。」  和樹は、恵の「並んだりしゃべったりしなくていいところ」という言葉に、ハッとした。涼矢とのデートプランはそれだ、と。女の子とのデートは、しゃべることに関しては気にする必要がなかった。今までの彼女は放っておいても自分からしゃべってくれたし、話しかけられれば、それに答えるのは苦ではない。だが、涼矢と自分では、どちらも自分から話題を提供するタイプではないし、そのように会話が弾むとは思えない。

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