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第34話 約束①

 この日は結局、恵の言いなりに渋谷・原宿・表参道・青山をめぐり、洋服を山ほど購入した。前日の物件めぐりよりも余程へとへとになったが、恵だけは元気で、帰りの新幹線でもまだ「あれも買ってくれば良かった」と火のついた物欲を燃え盛らせていた。  洋服は宏樹の分も購入した。大柄な宏樹は、サイズの合う服がなかなかないのが悩みだ。さすがの東京にはなんでもあり、宏樹サイズの品揃えが豊富な店を見つけて立ち寄ったのだ。宏樹は普段「体が収まるか収まらないか」で決めている品とは一味違う、ブランド物のポロシャツを特に喜んだ。それは買った服の中で一番高級なものだった。ひとりだけ留守番をさせた負い目で、恵が奮発したのだった。  和樹も水泳のおかげで肩幅だけは人並み以上にがっしりしており、ジャストサイズを着るとパツンパツンになってしまうので、1サイズ上のものを買うのが常だったが、今回の洋服購入の旅ではジャストサイズでもそう目立たなくなっていた。あれだけ長い時間をかけてつけてきた筋肉が、落ちるのはあっという間なんだなあと思う。そして、涼矢の肩に手を置いた時にも、さほどの隆起を感じなかったことを思い出して、ひとり赤面した。  和樹は自室に戻ると、スマホで涼矢にメッセージを送った。 [いま帰宅した] 即座にレスポンスが来た。[おかえり] [マジ疲れた。人多すぎ] [笑] [アパート決まった。西荻窪ってとこ] [何区] [杉並区] [都会だな] [アパート周辺はそんなに都会感ない]と送った後に、続けて[遊びに来いよ]と送った。既読マークはついたが、返事がなかった。[夏休み、来ればいい]と再度送った。 [ありがとう]のスタンプがついた。涼矢らしからぬ可愛らしいキャラクターのスタンプで、和樹は笑ってしまう。しかし、「行く」とは答えていないことに気づく。 [それで][デートの件][俺プランは映画→ランチ→水族館かプラネタリウム][どーすか?] [うん 了解] [いつがいい? 明日でも明後日でも] [疲れてるでしょ] [なんで?] [帰って来たばかりだから] [平気平気 俺の体力なめんな] [マジ疲れた][て書いてるし] [一晩寝れば平気。明日にしよう]早く会いたいから、と入力しかけて、消した。余計な期待をさせてしまう気がした。 [了解 何時] [11時 駅 東口][どう?] [了解]  女の子相手の時とはこんなやりとりすら勝手が違う、と和樹は思った。サクサクと決まっていくのはいいが、そっけない。歴代彼女たちが和樹を冷たいだの片思いみたいだのと批難した気持ちが、今更ながら少し理解できる気がした。こんなにそっけなくて、涼矢って、本当に俺のことが好きなのかな……などという不安すら沸き起こる。

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