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第37話 約束④

「離せよ。」涼矢が小声で言いながらふりほどいた。和樹はそれ以上無理強いはしなかった。涼矢は和樹の気を悪くしたと思ったのか、「変な目で見られるし。そのへんに知り合いだっているかも。」と言い訳がましく付け加えた。 「うん。ごめん。」和樹はあっさりと謝った。そして、「昼飯どうする? フードコートってのも味気ないよな。」と話題を変えた。シネコンはショッピングモールの中にあり、飲食店も一通り揃っている。「パスタ? それとも定食屋みたいなほうがいい? あ、カレーにするか。今の映画観たらカレー食いたくなってきた。」 「俺、辛いのはあんまり。」 「そうなんだ。他になんか好き嫌いある?」 「茄子とキノコ類。」 「苦手なの? 好きなの?」 「嫌い。でも、やつらの姿形が見えなければ平気。」 「やつらって。」涼矢のことを何も知らないな、と和樹は思った。「腹、かなり減ってる? 30分ぐらいは大丈夫?」 「全然問題ない。」 「そしたら、ちょっとうまい店知ってる。プラネタリウムのほうに近いから、あっち行ってから、そこで食べようか。イタリアンなんだけど。」 「うん。いいよ。ところで、なんでプラネタリウム?」  涼矢と話をしなくて済むからだ、とは言いづらい。それに、今の和樹は涼矢ともっといろいろ話したい気分になってきていた。「そうだな、あのイラストかな。おまえん家で見せてもらった。あれ、宇宙みたいだけど、海の中みたいにも見えた。だからプラネタリウムか水族館がいいかなって。なんとなく、そんな気分で。」とっさに思いついたことだったが、話すうちに元からそのように考えていた気になった。「あ、でも、他に行きたいところあるなら。」 「いや、いい。」涼矢の頬に赤みが差したように見える。「プラネタリウム、行きたい。水族館も。」和樹は涼矢のその言葉に、少し、胸が高鳴った。

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