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第38話 約束⑤
「今日中に両方行くのは時間的に厳しいかな。水族館は明日行こうぜ。」和樹の口から自然とそんな言葉が出てきた。涼矢の頬がますます赤くなった。気のせいではない、はっきりと赤く。
「明日……は、いいよ。今日一日って約束だから。」
「俺はそんな約束してない。涼矢の気が済むまでって言ったろ。」
「か」と言いかけ、あ行の口の形のまま、涼矢は黙った。
「え?」
「と、都倉はそれでいいの? 本当に?」
「今、おまえ俺のこと、和樹って呼ぼうとしてなかった?」涼矢は返事をしなかった。「和樹でいいよ。そのほうがいい。」
「今更、呼び方なんてどうでも。」
「どうでもいいなら、和樹でもいいでしょ。」涼矢は一本取られて悔しいのか、照れているのか判断つきかねる表情を浮かべた。「はい、呼んでみよう。セイ、カズキ。」
「か……ず、き。」
「ハーイ。」おどけてそう言い、和樹は涼矢の手を持ち上げ、強制的にハイタッチをした。
「少なくとも今は、俺、涼矢の彼氏だから。そのつもりで呼んで?」
「おまえって本当に、なんていうか……。」
「ノー、オマエ。セイ、カズキ。オーケー?」
「もう、いいよ。負けた。和樹。」涼矢は笑ってそう言った。勝ち負けで言うなら、今は俺のほうが負けている、と和樹は思った。涼矢が笑ったり、嬉しそうにしたりするたびに、和樹はどんどん涼矢に近づきたくなっていた。
プラネタリウムは、ショッピングモールからさらにバスで30分。市立科学館の中にある。
「懐かしい。小学校の社会科見学で来て以来だ。」科学館の建物を見上げて、涼矢が言った。
「だいぶ変わっただろ。」
「ああ。科学館は同じだけど、周りには何もなくて、ただの原っぱで、そのへんで弁当食べたと思う。」今は周辺にいくつかのマンションが建ち、整備された遊歩道や公園があり、少し離れたところには病院や学校らしき建物も見える。
「ここ数年で開発が急に進んだみたいで。今から行く店も最近できたらしい。」そんなことを話しているうちにイタリア国旗が飾られた店の前まで来た。
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