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第39話 約束⑥
外観はこじんまりとしていたが、中に入ると開放感があり、広く見えた。二人は茄子もキノコも使われていないことを確認したうえで、「本日のパスタランチ」を注文した。
「彼女とのデートで来たんだ?」と涼矢が言った。
「まあね。」
「女の子が好きそうな店だ。」
「そうなんだろうな。俺も最初は連れてきてもらった側だし。」
「ふうん。」水を飲みながら、例の上目遣いで和樹を見る涼矢。
「やめよ、そういうの。お互い、元カノの話は禁止。」
「お互いじゃないよ。どうせ俺には元カノなんかいないからね。」
「元カレはいたの?」
和樹の言葉に、涼矢はむせた。「い、いるわけないだろ。」
「あのさ」和樹も一口水を飲んだ。「前から、そうなの?」
「そうって。」
「つまり、男が好きなの?」涼矢の顔が少しこわばった。「言いたくないなら、言わなくていいけど。」
「自分でも、よくわからない。」涼矢は真面目な顔で答えた。
「なんで、俺なの?」
「グイグイ来るなあ。」
その時、ランチが運ばれてきて、話が中断した。
ミニサラダに、パンに、「本日のパスタ」であるカルボナーラ、それに食後のコーヒー。それがランチセットの内容ということだった。
「あ、美味しい。」と涼矢が言った。「パスタも美味いけど、このパン、すごく美味くない?」
「パンはお替わり自由のはず。」
「そうなんだ。お替わりしよ。」涼矢はあっという間にパンを食べると、さっさと手を挙げて、店員を呼び、お替わりを注文した。「和樹も食べる?」
「うん。」
「じゃ、二つ。あ、四つください。」
「おまえ結構食べるんだな。」
「ノー、オマエ、セイ、リョウヤ。」表情を変えずに淡々と言う涼矢。
「やっぱり、女子とは違うわ。」と和樹は言った。「パンのお替わりなんかしないし。そのくせ、シェアしたがる。俺ら、同じものオーダーしただろ? これが許されないわけ。」
「なんで?」
「違うものを頼んでシェアすれば、いろいろな味が楽しめるからだって。俺はね、本当は自分の食べたいものを100%食べたい派なんだよ。どうして食いたくないもの食わされて、食いたいもの分けてやらなきゃいけないんだって思ったよ。しかも、パンやライスは残して、スイーツ食べたーい、だよ?」
「うわ、めんどう……。」
「だろ? だから、今日のこのメシ、すげえ楽しいよ。」
追加オーダーのパンが運ばれてきた。
支払いの時に、二人は軽くもめた。「映画代、和樹が出したんだから、ここは俺が出す。」
「今日は俺が払うんだよ。」涼矢はせめて自分の分は、と食い下がったが、結局は和樹が全額払った。
「次は俺が出すから。」店を出るなり、涼矢が言った。和樹はちょっと考えてから「じゃあ、明日は涼矢がおごってよ。」と言った。
「明日……。」
「明日。水族館、よろしく。」その場に立ち尽くす涼矢を置いて、スタスタと歩き出す和樹。その後を涼矢は慌てて追いかけた。
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