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第40話 約束⑦
二人が科学館に入場すると同時に「間もなくプラネタリウムの開場です。鑑賞する方は、三階ロビーでお待ちください」というアナウンスが流れてきた。映画の時とは違い、タイミングよく見ることができるようだ。
さほど混んではおらず席には余裕があったが、子連れ客の割合が多く、彼らの喧騒を避けるため、二人は最後列の端の席に座ることにした。
やがて場内が暗くなり、星空が投影された。季節の星座が紹介された後に、それにまつわる神話のアニメーションが流れた。
和樹は涼矢の右手に自分の左手を重ねた。今度は、涼矢はそれを振り払おうとはしなかった。その次には涼矢の手をひっくり返し、自らの指をからめて、いわゆる「恋人つなぎ」をした。握る力を強めると、涼矢も握り返してきた。
和樹は、神話アニメのストーリーなど、まるで頭に入らなかった。ただ、ドキドキしながらそこにいた。女の子と手をつなぐより、数倍も緊張した。このシチュエーションで手を握ったのは、涼矢が初めてではない。綾乃とも来たことがある。女の子の手は小さくて柔らかい。こんな風につなぐと、自分の手のうちにすっぽり収まる気がしたものだ。でも、涼矢の手は自分と同じか、むしろ大きいかもしれなかった。指が長い分、女の子よりもしっかりと握り合っている感じがする。
自分から仕掛けたことだが、どうにも落ち着かない和樹だった。ドーム型の天井を見る余裕もなくなり、涼矢とは反対側に目をやる。薄暗くて、斜め前の列のリクライニングシートの背がぼんやりと見えるだけだ。
「ゼウスはこの二人を哀れに思い、カリストをおおぐま座、アルカスをこぐま座として星座にしました。」神話アニメが終わろうとしていた。「本日は当館プラネタリウムをご鑑賞いただき、ありがとうございました。以上で上映を終了いたします。間もなく場内が明るくなります。扉が開くまでそのままお待ちください」
場内が明るくなった。和樹は涼矢を見た。涼矢も同じタイミングで和樹を見て、目が合った。どちらともなく、黙って手を離した。
科学館のロビーの時計を見ると、まだ三時を少し回ったぐらいだった。「展示も見る?」と和樹が言った。プラネタリウムは、科学館の入場料に含まれていて、常設展示はそのまま見ることができる。
「あ、うん。」二人は順路にそって、マンモスの等身大模型や、いろんな鉱石の標本や、地球温暖化の度合いを示すパネルや、会話のできるロボットなどを見て回った。「でけえ」「これ欲しい」といった一言二言は交わしたが、あまり、話は弾まなかった。
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