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第41話 約束⑧
休憩スペースのソファに二人で並んで腰かけた。
「和樹、学部どこにしたの。」唐突に涼矢が言った。涼矢も、何か話題を探していたのだろう。二人の高校は選択科目でクラス分けがされており、同じクラスの二人は共に文系であることはわかっていた。
「経済学部。涼矢は?」
「法学部。」
「弁護士でも目指してんの?」
「うん。」
「マジで。」
「うち、親がそうだから。」
「お父さん弁護士なの?かっこいいな。」
「弁護士なのは母親で、親父は検事。」
「うわ、すご。涼矢、ええとこの子ぉやったんやね。」
「期待はずれの息子ですよ。親父の出身校は高校も大学も落ちて。」
「俺も第一志望の県立は落ちた。大学も二流だしな。」
「そんな奴ばっかりだよ、うちのガッコ。」
「だよな。うちは兄貴の出来が良いから、俺も期待はずれのクチなんだろうな。」
「お兄さんいるんだ? 俺、一人っ子。」
「へえ。」
「やっぱりって言わないんだな。」
「ん?」
「俺、マイペースであんまり他人に合わせないから。一人っ子って言うと、みんなやっぱりねって言うよ。」
「そんなの、関係ないだろ。人それぞれで。ま、涼矢は確かにマイペースだけどな。良いマイペースだからいいんじゃね?」
涼矢は笑って「良いマイペースってなんだよ。」と和樹の肩を叩こうとしたが、その手はすぐに引っ込めた。「それから、一人っ子だと淋しいでしょうとか、かわいそうとか言われたけど、別に淋しくはなかったんだよ。だってもともと一人だし、それしか知らないから。ただ、両親がそんな仕事で家にいる時間が少ないから、一人きりのことは多かったかな。いても、シッターさんや家庭教師や、要は大人ばかりだった。同年代と話すのが苦手なのは、そのせいかなとは思う。」
「なるほどねえ。今の話、すごく納得。」
「だから、和樹みたいに、誰とでも上手に会話できる人って、尊敬する。」
「俺はいいかげんなだけだよ。適当で無責任だからしゃべれんの。」
「そんなことない。」涼矢は横目で和樹を見た。「それが、さっきの答え。」
「さっきの?」
「なんで和樹なのか……ってやつ」
「ああ。」和樹は無性に恥ずかしくなった。涼矢に何もかも見透かされている気がした。上っ面でしゃべっている時も、自分なりに誠意をこめて話している時も、涼矢は鋭く見分けていたに違いない。
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