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第42話 約束⑨

「さて、この後はどうしようか。カラオケ、ゲーセン、ボウリング。あ、夕飯はどうする?」 「いや、もう今日は。金かけさせちゃってるし。」涼矢はいったんそこで言葉を区切ってから、続けた。「明日も会ってくれるんでしょ?」  和樹は涼矢の言葉に、またもドキリとさせられた。「金のことはいいよ。」綾乃とクリスマス前に別れたおかげで、プレゼント費用として貯めていた分の小遣いがそっくり残っていた。正月に親戚からもらったお年玉もある。受験で浪費する間もなかった。バイトもしていない身分だが、案外とお金には余裕がある和樹だった。「明日も会うけど。でも、もうちょっと一緒にいたい。」 「そういう、心にもないことを、シレッと言えるのがすごいと思うよ。」 「本心だから。」 「そういうところが、モテるんだろうな。」と涼矢は笑った。 「だから、本心だって。」和樹も笑った。「じゃあ、一個。俺のわがままを聞いてもらってもいい?」 「何。」 「今から涼矢んちに行ってもいい? それなら、金もかからない。」 「来るのは構わないけど。おもてなしは何もできないよ。今日も母さんいないし。」 「うん、それ、ベスト。」 「えっ?」 「なんでもない。」  二人は来たルートを逆行して、元の町に戻った。駅から涼矢の家までは更にバスに乗る。東京で暮らす和樹にはしばらく不要かもしれないが、涼矢はこの夏にでも自動車の免許をとるつもりだ。そんな話をしながら、二人はバスに揺られた。  バス停から自宅まで、数分歩く。「お母さんも仕事で出張したりするの。」と和樹が尋ねた。 「うん、バリキャリだからね、あの人。親父は単身赴任中。」 「うちの母親は専業。正反対のタイプだね。」 「聞いたことあるよ。超美人なんだろ。」 「普通のおばさんだよ。若い頃にモデルのはしくれやってたから、実年齢よりは若く見られるかもしれないけどね。」 「現役弁護士より、元モデルの母親のほうがいいよ。」  涼矢がドアの鍵を開け、中に入って行く。和樹もそれに続く。今日は和樹が内側からロックをかけた。もう「お邪魔します。」とは言わない。この家に自分達の他に誰もいないことは予想していたし、さっき確認もした。  和樹は、足だけを使ってスニーカーを脱ごうとしている涼矢の腕を、後ろからつかんだ。バランスを崩してよろめいた涼矢を、もう片方の腕で支えた。「な、何?」驚いて振り向いた涼矢の口を、自分の口でふさいで、抱きしめた。キスが終わっても、まだ腕の中にいる涼矢が、おびえたような目で見ている。涼矢の不安いっぱいの表情を無視して、もう一度キスした。不意に涼矢の体がこわばりが取れ、涼矢もまた両腕を伸ばし、和樹の首の後ろにまわしてきた。和樹は涼矢の口を舌先でこじあけ、中に入って行った。前回はすぐにひっこんだ涼矢の舌が、今日は従順に応えた。

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