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第58話 卒業式③

 更衣室の前に行くと、和樹のクラスの四人が最後だった。四人は口々に津々井に謝ったが、津々井は鷹揚に「みんなも今来たところだから、大丈夫大丈夫。」と言った。奏多はどこか宏樹に似ている、と和樹は思った。それから後輩や顧問も交えて、集合写真を撮った。  その後、卒業生達は謝恩会会場に移動する。その前後の恒例行事が、ネクタイ交換だ。和樹の学校は男女ともネクタイで、本命の相手や親友同士で交換する。同じものを交換するのだから、一見しただけではわからないのだが、わざとみんなの見ている前で交換するカップルもいる。それだけ仲が良いことのアピールというわけだ。中には後輩に請われ、半ば強引に奪われる者もいて、そういったケースだとノーネクタイになるから一目瞭然だ。  和樹は何人かの後輩からネクタイをねだられたが、優しく断った。綾乃は柴と交換していた。女子は同性の仲良しグループで交換する者も多いが、男子はこれといった相手がいなければ何もしないのが普通だった。  そんな中で、和樹はネクタイを取り、涼矢に渡した。涼矢は無表情に受け取り、それと引き換えに自分のネクタイを和樹に渡した。涼矢は驚くと無表情になり、照れると悪態をつく。和樹は涼矢のそんなところに気が付くようになった。 「え、おまえらで交換すんの。」と、それを見ていた柳瀬が言った。 「うん。」和樹は涼矢のネクタイを締めながら言う。 「じゃあ、俺も入れてよ。」 「いやだよ。」 「なんで。」 「柳瀬のことは愛してない。」 「何だそれ。おい、涼矢。都倉がこんなこと言ってるぞ。おまえの相手はこいつなのかよ。」 「ああ。」涼矢は淡々と答える。「これで無事に両思いだ。」  柳瀬は吹き出した。「それは良かった。それもこれも、川島先生のおかげだな。」 「そうだな。」和樹と涼矢は顔を見合わせた。それが冗談ではなく真実だということを知っているのは、二人だけだった。  謝恩会はカジュアルな披露宴のようだった。ブッフェスタイルの軽食が並んでいる。それを適当に食べながら、部活仲間や有志グループによるいくつかの余興や、三年間の思い出の写真のスライドショーを鑑賞し、担任に感謝のスピーチを聞かせ、花束を渡す。その最中に、寄せ書きの色紙がまわってきたり、あちらこちらからこの後どうするかを企画したりする声が聞こえる。和樹と涼矢はクラスの打ち上げと部活の打ち上げ、両方に誘われた。どちらに対しても和樹が代表して応対し、「あっちにも誘われているから、掛け持ちする。場所決まったら教えて。」と返した。謝恩会の席も出席番号順に決められていたので、二人はまたも隣り合って座っていた。

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