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第59話 卒業式④

「涼矢、どうする?」と和樹はフルーツを頬張りながら聞いた。 「どっちでもいいよ。和樹に合わせる。」涼矢はまだメインの肉料理を食べている。和樹が気付いた限りでも、これで三皿目の肉だ。もちろん他の料理も食べている。パスタランチの時にも思ったが、今では和樹より細身の涼矢なのに、案外大食いだ。 「場所が近ければ、両方行けるけどなあ。」 「カラオケはやだな。」 「人数多いだろうから、歌わなくても平気じゃない? あ、人数多い時点でいやなのか。」和樹は笑った。 「うん、やだね。和樹は両方出たいの?」 「どうしようかな。」和樹は周囲に聞こえないよう声のトーンをひとつ落とした。「涼矢が行かないなら行かない。」 「女子かよ。」 「だって、涼矢といたいし。」  涼矢はウーロン茶を飲んだ。「じゃあ、うちに来る?」 「え。」 「みんなと過ごすのもいいと思うけどね。最後だし。カラオケでもいいよ。一、二時間なら。」 「……すげえ迷うわ、それ。」和樹は言いづらそうに言う。「今日はさすがに、卒業式だし、ええと、親御さんもいらっしゃ…る、のでは?」 「うちのバリキャリは、式には出たけど、午後からは出勤だそうで。」 「ほほう。」和樹は更に声のトーンを落とす。「それは、誘ってんの?」  涼矢は落ち着かない様子で、またウーロン茶を飲んだ。「そう取ってくれてもいい。」 「おまえんち一択。」  涼矢は赤い顔をして黙って立ちあがると、料理のほうに足早に去って行った。  やがて謝恩会がお開きとなり、三々五々に散って行った。そのまま帰宅する者もいれば、二次会に移動する者もいる。用意周到に着替え持参の女子などは、着替えられる場所を探して右往左往している。和樹と涼矢は、部活のほうに参加するふりをして、クラスのメンバーから離れ、そっと帰宅ルートにまわった。

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