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第63話 ふたり③
和樹は自分の痕跡をティッシュで拭き取りつつ、涼矢の股間を見ると、勃起していた。萎えていなくて良かったと安堵しながらしごいてやると、涼矢も間もなく射精した。それも拭き取ろうと和樹が手を出すと、「自分でやるからいい。」と退けられた。涼矢は後始末を終えるなり、布団をかぶってまるまってしまった。
「何してる。」
和樹の言葉への返事はない。こういう反応に近いものを、以前見た覚えがある。ああ、処女だったマユと初めてベッドを共にした時の。事後に「恥ずかしいから見ないで」と言われた記憶がよみがえった。
「恥ずかしい?」和樹は布団の上から声をかける。
「うるせえ。」
「顔、見せてよ。」
「だから、それがやだっつってんだろ。」和樹は布団ごと涼矢を抱えこむようにすると、しばらくして涼矢が顔を出した。「何すんだよ。苦しいだろ。」和樹はニヤニヤしながらその顔を見る。「見んな。」言っている意味は同じだか、マユとは違う口の悪さだった。
「涼矢、大好きだから、こっち向いてよ。」
一瞬、言葉に詰まる涼矢。やがて観念したように和樹のほうを見て、話しだした。「俺相手で、ちゃんと、勃つの?」
「勃ってただろ。」
「抵抗ないの? だって、その、女とは違うよな?」
「抵抗か……。まったくなかったとは言わないけど、まあ、同じだよ。違うけど。」
「どっちだよ。」
「どっちでもいいだろ。」無意識にイラついていたのか、思いのほか口調が強くなってしまったと後悔したが、そうと気付いた時には遅かった。涼矢はムッとした。
「こういう時に『男って最低』って言う女の人の気持ちがわかった気がする。」
「ごめん。」と和樹は素直に謝った。「次の時は、そうだな、きっと、ローションとか使うといいんだろうな。準備しておくよ。」
「ロッ……。」
「使ったことないけどね。」
「そうなんだ。」思わぬ展開に、涼矢の腹立ちはごまかされてしまったようだ。
「そうなんですよ。俺のテクでみなさんローション要らずで。」
「和樹、お下品。」
「涼矢もそのうちメロメロの腰砕けにしてやるからね。」涼矢は和樹の顔をキスする寸前の位置まで引き寄せると、あの上目遣いで和樹を見た。本人は睨みつけて威嚇したつもりだろうが、和樹にはそれが性的な挑発に思えてドキリとした。「おまえ、時々すげえエロい顔するよな。」和樹は涼矢にキスをする。「そんな目で見られたら、また勃っちゃう。」
「おまえなあ。」涼矢は半ばあきれたように言いかけて、ふと黙った。それから和樹を自分から抱き寄せた。「まあ、いいよ、何回でも。」そして、独り言のように呟いた。「東京に行くのは、いつだっけ。」
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