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第64話 ずっと。①

 忘れかけていた東京行きのことを突きつけられ、和樹は現実に引き戻された。 「涼矢は遠距離、平気?」 「うん。」  涼矢が即座に答えたことに和樹はたじろいだ。「なんでそう思えるんだ。」 「だって、今までより、ずっと近い。」涼矢の手が伸びてきて、和樹の頬に触れた。「今まで、どんなに近くにいたって本当の気持ちなんか話せなかった。こんな風に触ることもできなかった。」そして、今日を境に、二度と会うつもりもなかった。一生。その遠さに比べたら。そんな涼矢の心の声が、和樹には聞こえる気がした。同時に、もし和樹が東京で新しい恋に落ちることがあっても、黙って身を引く覚悟もしている。そんな悲壮な声も。  和樹は頬に触れる涼矢の手の、手首をつかんだ。「東京に行っても、できるだけ会いに来るって言ったよな。今もそう思ってる。でも、現実問題、そんなにしょっちゅうは帰れないと思う。けど、あんまり会えなくても、俺のことをあきらめないでくれ。俺のこと好きだって言い続けてほしい。俺がフラフラしたら、ちゃんと怒って。ヤキモチやいて。捨てるなって泣いてすがって。」 「なんで上から目線なんだよ。そこは、信じて待ってろとか、絶対離さないとか、そう言うところじゃないの。」 「俺、自信ないもん。遠距離の経験ないし。そんなに長期間セックスもしないでいられるのかな、とか。手近に可愛い子いたらフラフラしそうだもん。でも、嫌なんだ。そんな風になりたくない。涼矢に対してちゃんとしていたいんだよ。だから、涼矢がちゃんと俺のこと、離さないで、好きでいてくれないと無理。」 「なんか……ズルくない?」 「うん。ズルいんだ、俺。自分のことを好きでいてくれる奴が好きなんだよ。だから、涼矢がちゃんと俺をつかまえていてよ。」 「ひどい男だな。」 「うん。」和樹は涼矢に口づけた。 「本当に、ひどい。」涼矢は、和樹の背中に腕をまわした。「俺を試してるの?」 「そうかもしれない。」 「俺が好きって言い続けていれば、好きでいてくれるの?」 「うん。」  涼矢は和樹の背中の手に力を込めた。「大好き。」

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