4 / 9

第4話

「……っ、は」 耳を撫でるような吐息。 顔が熱くて耳も熱くて心臓は痛いほどうるさくて動けない僕。 先生たちのキスはどんどん激しくなっていってる。 押しつぶされそうなくらい先生たちが身体を寄せてくる。 僕の心臓の音が先生に伝わってるかもしれない。 それと同じで伝わってくる熱と硬さに気づいた瞬間背筋がぞくりとした。 お尻と、太腿のあたり、前と後の両方に固い感触が押し付けられてる。 それがなんなのか、僕だって男だから知ってる。 キスしてるんだからそうなってもおかしくないのかな? キスもまだの僕にはわからない。 ごりごりと僕に擦りつけられる硬さ。 ドキドキ胸が苦しくて息するのも苦しくてため息がでる。 身体がむずむずして先生たちに挟まれて熱いけど背筋に何度も電流みたいなものが伝う。 ぐり、と樋山先生が腰を押し付けてきて―――。 「……ん」 硬さが擦れ合って、声が出た。 僕の声が。 自分の声にハッとして気づく。 僕も反応し始めてるって。至近距離でキスを見てるせいからか僕の半身も硬くなってきていた。 恥ずかしすぎて一気にここから逃げなきゃ、って身体を動かそうとした。 「―――美千」 キスを止めた先生たち。 濡れた唇を舐めながら矢崎先生が振りむいた僕に顔を近づけてくる。 僕のが反応してることに気づいてるのは樋山先生で矢崎先生は知らないはず。 なにを言われるんだろうって呼吸が苦しくなる。 「チョコいるか?」 「……え」 矢崎先生からの言葉は拍子抜けで、呆けてるとポケットから取り出したさっき一個貰ったチョコレートが目の前にかざされる。 矢崎先生はチョコレートを「あーん」と口元に持ってくる。 素直に開けてしまった口の中にチョコレートが突っ込まれた。 ポケットに入っていたからかチョコレートは柔らかくなっていた。 先生も僕に食べさせるときに指についたのか舌を出して舐め取ってる。 甘い味が口の中に広がる。 「お前キスしたことある?」 ねっとりと舌にチョコレートが溶けていく。 「俺もチョコ食べたいんだけど。キスしていい?」 「―――」 次々投げかけられるけどどれも理解する暇もないし頷く暇もないし。 「なんだそりゃ」 樋山先生が笑う声を聞く中で目を見開いたままの僕の唇に触れる体温。 「ファーストキスはチョコの味、だな」 数秒で離れていった矢崎先生の唇を呆然と眼で追う。 え、ファーストキス。 「ディープキスもチョコレートの味にしてみるか?」 顎に触れられ樋山先生のほうを向かされる。 ディープキスも? 僕の頭の中は受取るのに精いっぱいでそれ以外はなにも動かない。 故障してしまった僕の思考。 樋山先生を目を何度もしばたたかせて見上げてたら「目は瞑れよ」と言われた途端口を塞がれた。 溶けて溶けてあと少しの欠片しかないチョコレートに僕のじゃない舌が触れてくる。 全身硬直した僕は口の中も硬直してる。 動かせない舌に樋山先生の舌が絡みついてくる。 「……っ、ん」 ぞわ、っと鳥肌が立つ。 舌が舐められてる。なにかを舐めてるんじゃなくて僕の舌が舐められてる。 チョコレートはふたり分の熱であっという間に溶けてなくなった。 残った甘さを求めるように樋山先生の舌が口の中を這いだす。 上顎を伝う舌先にまたぞわっとして腰のあたりがずくずくした。 口の中が熱くって樋山先生の舌も熱くて頭の中も熱い。 脚が震えて崩れそうになって先生のワイシャツを握りしめてしまった。 「な、美千。触っていい?」 キスされたままの僕の耳が濡れた。 「っ……!?」 なにされてるのかわからない。 食べられてる? 僕の耳? 矢崎先生の声がして僕の耳が食べられてる。 耳朶を噛まれて、耳孔に舌が這ってる。 そこからもぞくぞくとしたものが走って崩れそうになった。 そんな僕を支えるように矢崎先生に後から抱きしめられた。 腰にまわされた腕。その片方が僕のブレザージャケットの中にはいってくる。 シャツ越しだけど、ひとにこんな風に触られたことなんてない。 お腹のあたりを撫でる手に耳に触れる唇。 樋山先生の舌は僕の口内をずっと這って頭の中が熱さでぼうっとしてくる。 チョコレートの甘さがどんどん消えていくのに別の甘さが舌から全身へと伝わって痺れさせてくる。 「ン、……っんん」 「チョコレートって媚薬効果があるらしい。知っていたか?」 口の中で樋山先生の舌が動くたびぞくぞくして、耳元で矢崎先生に囁かれてぞくぞくしてもう駄目かもしれない。 「―――ごちそうさま」 ようやく樋山先生の唇が離れていく。 全力疾走したみたいに呼吸が荒くなってて全身が重い。 矢崎先生に抱きしめられてなかったら座りこんでる―――そう思った瞬間解放された。 床に崩れ落ちるように座り込む。 「お前長いよ。甘いもの嫌いだったろ?」 「甘い食べものはな。高王子は別だろ。初物ならじっくり味わないと」 「俺がそっちにすればよかった」 胸元を握りしめて荒い呼吸を吐いている僕の頭上で先生たちの笑い混じりのやり取りがしてる。 僕は顔を上げれなくて膝をすり合わせる。 身体中が熱くて疼いて……股間が張りつめてた。 「高王子」 矢崎先生の声が落ちてきて足音が僕の前に回り込む。 視界には先生ふたりの足。 「チョコ、ウマかったろ?」 ドキドキ、ぐるぐるしてる。 下半身が反応してるのを見られたくなくて手で隠す。 矢崎先生に話しかけられても返事をする余裕がなかった。 「気持ちよかった、だろ?」 屈みこんだ矢崎先生。その手がさっきまで先生に舐められて湿った耳に触れてくる。 身体が震えて吐息がこぼれた。 気持ちよかった……? 気持ち……。 「俺たちこれからもーっと気持ちイイことするんだけど」 耳朶に触れて耳孔に触れてくる指先に首筋から下半身へとぞくぞくと刺激が落ちていく。 「なあ、高王子。―――お前も、混ざる?」 混ざる、混ざる、混ざる……って、なにに? 「抜いてやるから」 耳から離れた手が股間に置いていた僕の手に重なった。 上から僕の指に絡みついた指が、悪戯に動いて、それだけで―――気持ちよくて。 「どうする? 美千」 ドキドキドキドキドキして、怖い。先生たちが知らないひとたちみたいで、怖い。 怖い、のに。 僕は小さく首を縦に振っていた。 ***

ともだちにシェアしよう!