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愛しさのかたち

 残業で遅くなるという小林に手料理を振舞おうと、自宅に向かった竜馬の前に、見知らぬ女のコが目に留まった。そのコの足元にはピンク色のランドセルと手提げの鞄が置いてあり、明らかに誰かを待っている様子だったので、もしかしてと思いながら近づいた。  マンションの扉に背をあずけて立ちつくしているその女のコに、思いっきって話しかけてみる。 「君、ここで何をしているのかな?」  膝を折って目線を合わせると、おどおどしながら竜馬を見た。 「……お兄ちゃん、だれ?」 「ここの家の人と同じところで働いてる、畑中って言います」  女のコを怖がらせないように、にっこり微笑んで答えた。 「私は、上田愛菜です。パパに逢いに来ました」 「パパって、小林さんに?」  竜馬の問いかけに真顔をキープしたまま、首をゆっくり縦に振る。緊張感を漂わせる面持ちで、警戒されていることが嫌というほど分かった。  小林に娘がいることを事前に知っていたため、そこまで驚くことはなかったが、突然の来訪に竜馬自身、焦りを覚えた。言葉で騙しがききそうな幼稚園児ならいざ知らず、小学生となるとそうもいかない。 「と、とりあえず中に入ろうか。学校が終わってからここに来て、ずっと待っていた感じなのかな?」  ポケットから鍵を取り出して開錠し、中に促そうと試みる。 「お兄ちゃんはどうして、パパのお家の鍵を持っているの?」  鍵を開けたことにより、背もたれにしていた扉から離れて竜馬を見上げる愛菜は、不思議そうな表情で小首を傾げた。 (――娘として、そこんところがやっぱり気になるよなぁ) 「あのね、お仕事でいつもお世話になってる小林さんにお礼をしようと思って、晩ご飯を作ってあげるために鍵を預かっていたんだ。ちなみにお母さんは愛菜ちゃんがここにいることを、知っているのかな?」  家に入りやすいように、ランドセルと手提げの鞄を持ってあげながら背中を押す。愛菜は俯いたまま何も言わず、竜馬と一緒に玄関に入った。  何も言わないことで黙って小林に逢いに来たのが分かったので、質問を止めて違う話題を持ち出すべく、語りかけてみる。

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