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愛しさのかたち6
「愛菜ちゃんは愛菜ちゃんなりに、何か思うことがあるんだよね? それをパパに伝えに来たのかな?」
小林と喋っているときよりも声色を上げて、愛菜に訊ねてみる。
「……あのね、仲のいい友達に、パパがいないのはおかしいって言われたの」
ぼそぼそ呟くように告げた愛菜の言葉を聞いて、小林と目を合わせた。眉間に皺を寄せた小林は、どこか話しづらそうにしていたので、あえて自分から口火を切る。
「それ、俺も言われたことがある」
「竜馬も?」
さっきよりもちょっとだけ明るい口調になった愛菜を見て、柔らかく微笑んでみせた。
「うん。おまえの父さんは、どこに行ったんだって聞かれた。だけど答えられなかったんだ。どこにいるか分からなかったし」
「…………」
「愛菜ちゃんのパパは一緒に暮らしていないけど、こうやって逢えるだろ? そのことを、お友達に伝えてみたらいいんじゃないかな」
父親と母親がいつも傍にいる友達に、そのことについて話をしてみても、離れて暮らす事情が分からない以上、納得するとは思えない。だけど人によって家族のかたちはいろいろあるという現実を、愛菜の事情を使って説明してみるのも、一つの手なんじゃないかと竜馬は思った。
「そうだよね。こうやってパパに会えることを、まりあちゃんに伝えたらいいんだ」
「クラスで仲のいいお友達は、まりあちゃんっていうのか?」
愛菜の呟きに反応して、小林が優しく語りかけた。
「うんっ。席替えしてから隣になってね、私が消しゴムを忘れたときに貸してくれたり、まりあちゃんが忘れたときは貸したりしたんだ。髪の毛がすっごく長くて、とってもキレイなの」
「愛菜ちゃんだって、髪の毛は長いほうじゃないのかな?」
ポニーテールをしている愛菜の毛先は、ちょうど肩の高さだったので長いと指摘してみた。
「まりあちゃんのほうが長いんだよ。背中の全部が隠れちゃうの」
話し合いを始めたときとは一転、明るい雰囲気がリビングを包み込む。
愛菜の弾んだ声に導かれるように、小林と竜馬も日常のことを口にした。竜馬の話から普段聞くことのない小林の様子を聞いて、愛菜はお腹を抱えて笑い、小林はここぞとばかりにむくれた。
三人三様で盛り上がる時間は、あっという間に過ぎていく――。
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