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しあわせのかたちを手に入れるまで2
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『夕飯は時間がかかるものを作る』と海辺で盛大に言い放ったのに、宝飾店の帰り道に寄ったスーパーで竜馬がチョイスした物は、チンして食べる出来合いのお惣菜ばかり。たいして重くない買い物袋を小林が手にし、仏頂面のままでいる竜馬の顔を覗き込んだ。
「……何ですか?」
「どうしてそんな顔をしているのかって。無理して笑えとは言わないが」
「誰がこんな顔をさせたと思ってるんですか。ムカつく!」
小林の笑顔に勝てない竜馬。それを分かっているからこそ、ここぞというときにそれを使う小林が、どうにも憎くてたまらなかった。
「こっちに来い」
言うなり竜馬の腕を引っ張り、エアコンの室外機が置かれている狭いビルの隙間に無理矢理押し込む。
足元に買い物袋の置く音を耳にしたときには、小林にぎゅっと抱き竦められていた。
「指輪……。色気のない渡し方をして悪かった」
「なんで今更こんな場所に引きずり込んで、抱きしめながら謝るんですか。誠意が感じられないですって」
「今日に限って何をやっても、竜馬に叱られてばかりいるな」
反省の色がない小林の態度に呆れ返り、されるがままでいた。無精髭が頬に当たってチクチクしたけど、小林の存在を間近で感じることのできる感覚は、愛しさを伴うものだった。
「小林さん、どうしてあのタイミングで、指輪を渡そうと思ったんですか?」
微妙な雰囲気を打破すべく、まずは疑問に感じたことを口にしてみた。
「お前が俺の物だっていう、印が欲しかったから」
「印?」
囁くように言葉を発すると、小林の顔が目の前に移動してきた。薄暗がりだったけどその表情は、大通りに設置された街灯の明かりでしっかりと確認できる。いつも口元に浮かべている笑みがなく、どこかしょんぼりしているように見えた。
「イケメンすぎる竜馬くん。身近でお前を狙ってるヤツがいるんだぞ」
「それって1ヶ月前に、事務のバイトで入ってきたコですよね?」
「何だ、気がついていたのか。『畑中くんってすっごくカッコイイし、優しいですよねー。彼女いるんでしょうか?』なぁんていうのを、内勤のヤツらに根掘り葉掘り聞いて回っていた」
必死に声色を高くして可愛らしくセリフを言い切った小林を、白い目で竜馬は見つめ続けた。ところどころ掠れて可愛らしさの欠片すらないそれに、軽くため息をついてみせる。
「全然似ていないモノマネを見せられるとは、思いもしなかったです」
「とりあえずお前には、年上のしっかりした彼女がいることになっているからな」
「はあ!? 年上のしっかりした彼女ですか。しっかりした、ねえ……」
瞳を意味深に細めて見上げてくる竜馬の視線に小林は一瞬たじろいだが、顔にあるすべての表情筋をきゅっと引き締めた。自分がこれから告げる言葉に、信ぴょう性を持たせるべくの作戦である。
「しっかりしてるだろ。誰よりも深くお前を愛し、こうして感じさせることができるのは俺だけなんだから」
竜馬の顎に触れてやんわり唇を開かせると、被さるように小林の唇が重ねられる。
「んぁっ……ぁあっ」
こんな場所でキスするなんてという竜馬の苦情を防ぐように、舌を絡めて小林は責め立てた。それに負けじと抵抗すべく両手を使い、小林の体を叩いて嫌だということを訴えてみる。その動きを止めるためなのか、竜馬のズボンの上から大事な部分に触れはじめた。
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