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しあわせのかたちを手に入れるまで4
大好きな男の顔がすぐ傍にあるのに、竜馬の心は沈んだままだった。
「どんな気持ちで、俺がお前に指輪を渡したと思ってるんだ」
「それは――その……」
「ひとつはモテるお前に、変なのが近づかないようにするため。もうひとつは――」
困惑の表情で固まっている恋人の唇に、小林は触れるだけのキスをした。
「俺から逃げられないようにするためだ。できることなら、首輪と足輪も取り付けたいくらいなんだぞ」
「そんなに付けられたら、動くことができないじゃないですか」
冗談にしてはタチの悪い言葉に、思わず吹き出してしまった。いつもこうして、絶妙なタイミングで自分の中にあるマイナスな感情を癒してくれる彼に、頭が全然上がらない。
「ついでに仕事を内勤にして、極力外部との接触を遮断したい俺の気持ちが分かっていないだろ」
「そうですね。実際に誘われたことがありますし」
「ゲッ! 本当なのかそれは?」
「ええ。ぜひとも孫の花婿になってくれって、年配のお客さんに言われました」
竜馬が言うなり太い眉を逆への字にして、心底面白くなさそうな顔をした小林。
「お前は年上キラーなのか!? そんな誘われ方があるのか」
「恋人がいるので無理ですって、ちゃんとお断りしましたよ」
「他にもあるだろ。お前のことだから心配させないように、たくさん隠し事をしているに違いない」
「さぁ……」
あったところで全部断っているので、ないに等しいと思っていた。
「隠し事してるだろ? 分かってるんだからな俺は。愛してるんだぜ、おい」
自分を射竦めるように見つめる視線から、小林の気持ちが表れていた。目を逸らさずに隠し事を全部言えと語っているそれに応えたいと思えど、やはり躊躇してしまうのは過去の出来事が踏み止まらせていた。
好きだった人に想いをぶつけた結果、目の前で壊れてしまった姿が今でも脳裏にこびりついている。同じように小林のことも壊してしまうかもしれないと考えると、二の足を踏んでしまった。
「竜馬そうしてずっと、気持ちを押し殺したままでいる気なのか?」
「あ……」
「最初に言ったはずだぞ。地獄の業火に焼かれてもいいって。しかも意外と俺は頑丈にできてるんだ。体も心も鋼なんだぞ」
「小林さんが頑丈なのは分かってるつもりです。でも……」
不安げに揺れ動く竜馬の視線に絡める瞳を細めながら、くちゃっと柔らかく微笑み、両腕を体に巻き付け、ぎゅっと力強く抱きしめてきた。
「ひ弱じゃいられないだろ。こうしてお前を守らなきゃならないんだし。気持ちにブレーキをかけるな」
小林らしい威勢のいい声が、胸の中にじんと響いた。自分に勇気を与えてくれた恋人の身体に、迷うことなく腕をまわして抱きつく。肩口に額を押しつけ、滲んでしまった涙が見られないようにしたら、乱暴に頭をぐちゃぐちゃと撫でられた。
「なぁ竜馬、帰ったらさ」
「はい……」
「さっきよりも、すっごくやらしいことしてやるから。覚悟しておけよ」
信じられない言葉を発した小林に驚き、慌てて顔を上げてしまった。
「お前の中にある炎を引きずり出して、俺が頑丈なことを示してやる。いいな?」
言うなり置きっぱなしにしていた買い物袋を片手に、反対の手は竜馬の腕を掴んで、さっきまで歩いていた場所に押し出すと、スライドの大きな歩幅で歩く。
どこかワクワクする子供みたいな小林の横顔を愛おしいなと思いながら、竜馬は急ぎ足で並びながら歩いたのだった。
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