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しあわせのかたちを手に入れるまで5

(今日は朝から忙しない感じだな、小林さん)  月はじめや月末じゃないのにも関わらず、なぜだか焦って仕事をこなしているように竜馬の目には映った。小林のあたふたしている行動のせいで、傍で仕事をしている事務のバイトのコやおばちゃんまでもが流されるように仕事をしている始末――  そんな姿を横目で捉えながら配達で使うトラックの鍵を手にし、帽子をかぶって小林のデスクに赴いた。必死に仕事をしていた小林だったが恋人の存在に気がつき、微笑みながら顔を上げる。 「これから配達か、気をつけて行けよな」 「はい。あの、その前にちょっとだけいいですか?」  竜馬は顎で扉を指し示し、一緒に外に出るように促した。  忙しいのになと呟きながらも、先に出ていく背中を追いかけた小林。たくさん駐車されているトラックの荷台の隙間へと誘導した。 「今日は何か、前倒ししてやらなきゃならない仕事でもあるんですか?」  小林の仕事ぶりから想像したことを訊ねてみたら、目を見開いて固まる。ちょっとだけ焦りの見える表情は、らしくない感じだ。 「ちょっと、な……」  竜馬の視線を外し、斜め上を見ながら口を開いた。 「そんなに大変なら、配達が終わってからでも手伝いますよ?」 「それまでに、絶対終わらせる!」 「無理しちゃって。小林さんがそんなんだから、周りが気を遣っているのが分からないんですか?」 「あ、まあ……。申し訳ないと思ってる」  両手を意味なくにぎにぎして落ち着きなく視線を彷徨わせる様子で、頭の中に疑問符が浮かんだ。この感じはまるで、あのときのシチュエーション――浜辺で指輪を貰ったときにしていた、小林の態度そのものだった。 「……小林さん、何を隠しているんですか?」 「何も隠してなんかねぇよ、怖い顔して睨んでくるなって」  口元を思いっきり引きつらせながら苦笑いを浮かべる姿で、隠し事をしていることが明白になった。 「そんなおっかない顔をしてると、お客様に不審がられるぞ。ほらほら出発の時間だ」  自分のしている腕時計を目の前に掲げて、わざわざ時間を教えて追い払おうとする小林の無駄な努力に、竜馬は渋々乗っかることにした。 「じゃあ俺がお昼に戻ったら、この話の続きをしますからね!」 「ぉ、おう! 気をつけて行けよな」  小林の隠し事を暴く宣言をしっかりしてからトラックに乗り込み、エンジンをかける。それなのにどこか余裕そうな顔になった恋人の面差しに向かって、あっかんべーをしてから勢いよくアクセルを踏み込んだのだった。

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