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しあわせのかたちを手に入れるまで7
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午後からの配送を終え、やれやれと思いながら会社に戻った竜馬の目の前に、いきなり小林が現れた。
「行くぞ!」
「は? えっ!?」
わけが分からないまま小林が竜馬の腕を掴み、強引に外へと連れ出す。そのまま従業員が利用している駐車場に向かって、小林が乗っている白のセダンの助手席に押し込められた。
呆然とした竜馬を尻目に、何事もなかったかのように小林は運転席に座るとエンジンをかけた。
「もう、いきなり何なんですか?」
車内に響くエンジン音をかき消すような竜馬の叱責に、ちょっとだけ肩を竦める。
「怒るなよ、時間制限があって慌ててたんだ。それよりもお前、今日はいつもより戻りが遅かったじゃないか?」
「会社のすぐそばの交差点で工事があって、片側一車線通行だったんですよ」
「俺が戻ったときにはやってなかったのに。タイミングが悪いな……」
チッと舌打ちして、ハンドルを叩く。
「小林さん、質問に答えてくださいよ。出会い頭でいきなりの拉致に時間制限なんて、話が全然見えません」
胸の前で両腕を組み、横目で小林を睨んでやった。そんな竜馬の視線を受け、ありありとバツの悪い顔をする。
「古くからの知人に頼み込んで、ホテルのチャペルを貸し切りにしてもらった。時間は午後7時半からの20分間だけ……」
「チャペルの貸し切り。手元に指輪がないというのに、これまた先走りましたね」
「……用意できてるって言ったら、一緒に行ってくれるか?」
言うなりジャケットのポケットからえんじ色の小箱を出して、中が見えるように開く。そこには、ふたつの指輪が仲良く並んで光っていた。
「何で用意されて……。だって出来上がりは来週末の予定だったのに」
「お前が宝石店で俺に噛みついただろ。一泡吹かせてやろうと、近くにいた店員にちょっとだけ相談したんだ」
「いつの間に?」
「竜馬が指輪のサイズを測ってる最中、こっそりとな。その人がなんと店長さんで、一部始終を見ていた経緯も関係して俺の話に乗ってくれた」
得意げに話す小林には悪いが憐れみを感じた店長さんの計らいは竜馬にとって、あまり気持ちのいいものではなかった。それはお揃いの指輪の出来上がりを楽しみに、指折り数えて待っていたせいなのだが――
「しっかし、幹線道路の片側交互通行は厳しいな。時間が間に合わないじゃないか」
手にした指輪の箱をポケットに戻し、搭載されているナビの操作をしようとした小林。その手を竜馬がぎゅっと握りしめた。
「何だよ、近道を探そうとしてるのに……」
「運転、変わってください。俺なら約束の時間より、5分ほど早く到着できます」
言いながら頭の中で、ホテルまでの最短距離の道筋を描いていく。
「竜馬……?」
「会社のドライバーを、こういうときに使うべきなんじゃないですか?」
帽子を被り直し、さっさと助手席から降りた竜馬を見て、困惑の表情を浮かべたまま小林が車から降りた。
「指輪の出来上がりに嘘をつかれたのもムカつきますけど、この格好でチャペルに行くこともどうかと思います」
笑いながら小林の両頬をこれでもかと抓ってから、素早く運転席に座り込んだ。
「早く乗らないと、時間に間に合いませんよ」
ぼんやりしたままの小林に告げ、運転席のドアを閉めた。素早くシートベルトをして前を見据えた瞬間、しょげた顔した小林が助手席に乗り込む。
(自分から計画したくせに、本当に面倒くさい人だな――)
周囲に人がいないことを窓の外に視線を飛ばしてしっかりと確認してから、被っていた帽子を外し、シートベルトがロックしないように小林に近付くと、逃げられないように顔を掴んで唇を重ねた。
「んぅっ!?」
「小林さんのサプライズ、嬉しいから。俺にも手伝わせてもらえませんか?」
わざとらしく上目遣いで頼み込んでみた竜馬の作戦――小林に有効か分からないけど思いきってやってみたら、目の前にある顔が赤面しながらデレデレと崩れていく。
「俺はお前がいないと、何もできない駄目な男だな。手伝ってくれるのか?」
「もちろん! 早くシートベルト締めてくださいね」
作戦がバッチリだったのを内心笑いを堪えて、膝に置いた帽子をきちんと被った。仕事に使ういつもの帽子を被るとドライバーモードに切り替わる気がするので、頼まれた仕事を完璧にこなすべく竜馬にスイッチが入る。
「出発します!」
頭の中にさきほど描いた道筋を思い出し、ギアをドライブに入れてアクセルを踏みしめ車を発進させた。時間は正直ギリギリといったところだったが絶対に間に合わせようと、必死に車を操作したのだった。
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