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しあわせのかたちを手に入れるまで8

***  お客様駐車場に車を停め、エンジンを切ってシートベルトを外してから車の外に出ると、早くしろといわんばかりに小林に腕を掴まれた。ふたりでホテルに向かってひたすら疾走する。  竜馬が裏道を使ったお蔭で、約束の時間よりも8分ほど早く到着したというのに、そんなこと知ったこっちゃないという感じで慌てふためく恋人の背中が、なぜだか愛おしく見えた。  ホテルの中に足を踏み入れた途端に走るのをやめて、急ぎ足で二階へと続く階段を駆け上った。帽子を被ったまま豪勢な場所に入ることに躊躇いを感じたので、被っていた帽子を慌てて小脇に挟めた状態で、小林に引っ張られた。  されるがままでいたら、廊下を突き進む小林の足がピタリと止まった。 「時間ギリギリって昔と変わらないわねー。疲れた顔したオッサンとイケメンの組み合わせが、すっごく似合わない!」  突き当りにある大きな扉の前にいる女性が、小林に指を差しながら声を立てて大笑いした。 「行き遅れた女の笑い声が下品すぎて、疲れが余計に増えたんだ。人の顔見て笑うんじゃねぇよ!」 (この人、○○グランドホテルのホームページで見た安藤 薫さんじゃないか!)  竜馬から手を放して両手の腰に当てながら苛立った様子で安藤に近付いていく小林の後ろを、微妙な表情でついて行くしかない。 「今さっきここで式を終えたばかりだから、雰囲気が漂っていると思うわ。厳粛なムードもバッチリだと思う」  面白くない顔している小林を見ながら、柔らかくほほ笑んで仲の様子を教えてくれた安藤に、竜馬はぺこりと頭を下げた。 「あの、ありがとうございます。ホテルの支配人さん自ら、こんなことをさせてしまって……」 「へぇ……。うっかりしている小林の相手らしい、しっかりした人じゃないの。良かったわね」 「茶化すんじゃねぇって。竜馬もこんな奴に頭を下げることはないんだ、いい加減にしろよ」  そんな文句を言った小林の頬は赤くなっていて、安藤とふたりでその姿を見て笑ってしまった。 「私からふたりへのプレゼント第二弾として、チャペルで流れている曲をプレゼントしてあげるわ。それを聞きながら、永遠を誓ってくださいませ」  安藤が両手で大きな扉を開けると、奥の方にある祭壇が目に留まった。オフホワイトを基調としたあたたかな空間と参列者が座る椅子がバージンロードを挟むようにたくさん置かれていたのだけれど――  祭壇の天井にあるステンドグラスが日の光を浴びたら、すごく綺麗に見えるんだろうなぁと思わされた。既に夜なのでそれが見られないのがすごく残念だったりする。 「この曲って、十数年前に流行ったものだったか?」  手に持っていた帽子をぎゅっと握りしめてチャペルの造りに感動していた竜馬の傍らで、小林が安藤に音楽について話しかけた。 「よく覚えているわね。確か数年前にD社のアニメ映画のエンディングテーマになったものだし、知らない方が不思議かも」 「俺でも知ってますよ。女性曲をよくカバーしている、キーの高い声の男性歌手が断念した歌なんですよ。メッセージ性の強いこの曲を完璧に歌いこなせるのは、彼女だけだって言ってたっけ」  チャペルの中で静かに流れるパイプオルガンの調べに誘われるように、小林と手をつないでいた。 「小林様、畑中様これからはひとりではなく、ふたり仲良く未来を歩んでいけるようにしっかりと誓いを述べてくださいね」  安藤からかけられた声に、視線を合わせてから頷いてみせた。 「同性同士の幸せなふたりの物語(Story)を、ここからしっかりと拝ませていただきます」  ちゃっかり曲名を告げた安藤に背中を押されて、小林と一緒にチャペルに足を踏み入れた。

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