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第5話

辿り着いた先は教室のある棟から離れた空き教室。もちろん人影などはなく、ようやく彼に文句が言える状況になった。 「っ、放せ……!」 そう言って思い切り腕を自分の方向に引く。油断していたのか、それとも目的地に着いたからなのか、彼は案外呆気なく拘束を解いた。 「良にぃ、何か僕に言うことがあるんじゃない?」 だが、彼の威圧的な雰囲気は尚も僕を捕らえる。 「昨日のこと、よーく思い出して」 笑顔が怖いとはこのことかと本能的に感じた。皮膚にひしひしと感じる、咎めるような視線。 「僕が怒ってる理由、分からない?」 ここで頷けば彼の怒りを増幅させてしむうのは目に見えていた。でも、本当に分からない。 ユウ以外の吸血鬼と話した覚えはないし、クラスメイトとだって必要以上の会話は交わしていない。 彼に怒られる理由が見当たらなかった。 「これ、良にぃのだよね?」 そんな僕に彼が取り出したのは1枚の紙。それでも首を傾げていると、さすがの彼も苛立ちを隠さない声で答えを紡いだ。 「なに、大学進学って」 彼が取り出した紙は、進路希望調査書。昨日の5時間目に書いたものだった。 「なんで……ユウが持って……」 「今日の昼休み、良にぃの担任から借りたんだよ」 何でそんなことをしたのか、とか、そもそも個人情報が担任から漏れるなんておかしいだろ、とか。 疑問や不安は湧いてくるが、それを口にしたところでこの状況は変わらない。 「良にぃが自由にしていいのは高校までって約束したよね?」 「だって、父さんが大学までいいって……」 ドンッ!! 大きな音に言葉が遮られる。 思わずつむってしまった目を恐る恐る開けると、彼が机を蹴飛ばしたのだと分かった。 「良にぃの主人は僕でしょう?それなのに、僕より父さんに従うの?」 「っ、そういう意味じゃ……」 「躾直しが必要みたいだね」 その言葉とともに、ようやく彼の顔に笑顔が戻る。だがそれは、より不安を煽るような笑顔だった。

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