6 / 13

第6話

「やめっ……!」 机との距離が一気に縮まる。手を後ろに固定されれば、上半身はまるで役に立たない。 「たまにはいいでしょう?こういうのも」 「やだっ、誰かに見られたら……!」 ジタバタと暴れてみるが、この体勢ではあまりにも分が悪い。そうしているうちにも、外気に触れる部分はどんどん広くなっていく。 「これ以上は誰にも見せないよ」 そう優しく言った彼は、暫し動きを止めた。不思議に思ってなんとか顔を上げると、窓の外に見えたのは1羽のカラス。 彼に睨まれでもしたのか、そいつは急いで飛び去っていった。 それが見えた瞬間に、後ろに感じた違和感。本当に彼はここで始める気なのだと分かり、焦りと不安が身体を震わせる。 「そんなに緊張しないで。家でやるときと、何も変わらない」 彼の声が身体に浸透していく。こういう時にしか出さない一際甘い彼の声が、僕の思考を狂わせていく。 トドメのように、彼が首筋を舐めた。 ……吸ってほしい。僕の身体に、早く牙を突き立ててほしい。 沸々と湧き上がる欲望。『餌』としての本能が、簡単に理性を喰らい尽くしていく。 そうなればもう、あとは感情に身を任せるだけ。 「あっ!」 『餌』とは、吸血鬼の餓死を防ぐために生まれる、血を吸われるためだけの存在。 彼らの血が混ざっているせいで、人間よりもはるかに長い時間を食糧として生きる存在。 「んんっ……」 そんな僕たちは生きていくため、吸血行為を快楽と捉えられるように出来ている。 「ほら、気にならなくなってきた」 そうなるように在る身体を、意思でどうこうするなんて無理な話なんだ。

ともだちにシェアしよう!