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第6話
「やめっ……!」
机との距離が一気に縮まる。手を後ろに固定されれば、上半身はまるで役に立たない。
「たまにはいいでしょう?こういうのも」
「やだっ、誰かに見られたら……!」
ジタバタと暴れてみるが、この体勢ではあまりにも分が悪い。そうしているうちにも、外気に触れる部分はどんどん広くなっていく。
「これ以上は誰にも見せないよ」
そう優しく言った彼は、暫し動きを止めた。不思議に思ってなんとか顔を上げると、窓の外に見えたのは1羽のカラス。
彼に睨まれでもしたのか、そいつは急いで飛び去っていった。
それが見えた瞬間に、後ろに感じた違和感。本当に彼はここで始める気なのだと分かり、焦りと不安が身体を震わせる。
「そんなに緊張しないで。家でやるときと、何も変わらない」
彼の声が身体に浸透していく。こういう時にしか出さない一際甘い彼の声が、僕の思考を狂わせていく。
トドメのように、彼が首筋を舐めた。
……吸ってほしい。僕の身体に、早く牙を突き立ててほしい。
沸々と湧き上がる欲望。『餌』としての本能が、簡単に理性を喰らい尽くしていく。
そうなればもう、あとは感情に身を任せるだけ。
「あっ!」
『餌』とは、吸血鬼の餓死を防ぐために生まれる、血を吸われるためだけの存在。
彼らの血が混ざっているせいで、人間よりもはるかに長い時間を食糧として生きる存在。
「んんっ……」
そんな僕たちは生きていくため、吸血行為を快楽と捉えられるように出来ている。
「ほら、気にならなくなってきた」
そうなるように在る身体を、意思でどうこうするなんて無理な話なんだ。
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