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第8話

昨日、僕が彼に呼ばれたという話はすぐにさまざまな憶測を呼んで、朝のクラスはその話で持ちきりだった。 ただでさえ人を避けているせいで孤立しているというのに、それに好奇の目まで加わるのは非常に居心地が悪い。 だがそれでは飽き足らず、ついに直接聞いてくるクラスメイトまで現れた。 「良、あのあと優様と何してたんだよ」 「別に何も」 境界を引くように冷たくそう言えば、無神経なクラスメイトは僕の手を取る。 「なんだ、つまんねぇの」 きっと彼が見たのは僕の指輪の色。昨日と変わらない、青色だ。 「『優様』が僕なんか相手にするはずないだろ」 「ま、それもそうか。俺らじゃ接点ないもんな。優様はほとんどこっちの棟に来ねぇし」 興味を失ったように離れて行くクラスメイト。深く追求されなくて良かったとホッとする。 しかし『優様』がたてた波は、確実に拡がっていた。 「良くん、呼ばれてる」 またしてもクラスメイトに手招きをされドアまで行けば、今日は知らない男が立っていた。 綺麗だけれど同時に冷たい印象を与える、そんな凜とした表情を持った男だった。 その並外れた雰囲気は、男が吸血鬼であるという証明なのだろう。 「ついてこい」 掴まれると同時に強く引っ張られる腕。 振り払おうとすれば、手首にぐっと力が込められた。加減をする気のないそれに、彼に抱くのとは違う、純粋な恐怖が湧き上がる。 「早く」 苛立ちを隠す気すらない声。その手を払える力があるはずもなく、僕は男に従った。 そして着いたのは、昨日と同じ部屋。 まさか昨日のことを見られていた……?いや、でもそれなら彼は気付いていたはず。 だが、そうでもなければこの部屋を選ぶだろうか。 「なぁお前、優様の何なの?」 現実というのは嫌な予感ほどよく当たるもので。 「答えろよ」 男の冷たい目がさらに鋭さを帯びる。どう答えればいいというのか。兄弟?主人と『餌』? どちらにせよ、彼に許可を貰っていなのだから僕の口から言うことなんて出来ない。 それに、男がどこまで知っているのかも不明だ。ただ噂を聞いただけなら適当に嘘をついてやり過ごせば……。 「昨日『優様』に呼ばれた件ですか?それならただ、先生からの伝言を僕に伝えに来てくださっただけで」 嘘がバレないように、相手を怒らせないように、はっきりとした丁寧な口調を心がける。だが、そんな努力は意味を成さなかった。 「へぇ……それで押し倒されたんだ?」 男の言葉に心臓が凍りつく。 「優様に睨まれたから全部は見れなかったけど、あんな体勢になったらやることは1つだよなぁ」 「まさか、あのカラス……」 「そうだよ、俺の使い魔。気付いて無かったの? まぁ、そんなことはどうでもいいや」 男が一歩一歩近付いてくる。距離を保とうと一歩ずつ下がるが、教室はそんなに広くない。 引いた足に衝撃を感じ、もう後ろは無いのだと悟った。 「ねぇ、お前は優様の何?どうやって優様をオトしたの?」

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