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第9話
「へぇ、まだしらばっくれるんだ」
そう言って男の手が伸びてくる。横に逃げられるほど男との距離はなく、それをただ見ていることしか出来ない。
「ここ噛めば、俺にも分かると思う?」
男が触るのは、まだ彼の牙の痕が残る場所。
「っ、触んな!」
何となくそれが不快に感じられて、男の身体を突き飛ばした。
「……痛いんだけど。優様以外はお呼びじゃないってわけ?……ほんと苛つく」
「うぐっ」
まともな悲鳴すら出ないほどグッと首を掴まれる。彼の顔が近付いて、鋭い痛みが走った。
「痛っ、痛い!!」
彼の時とは違う、今までに一度も経験したことのない痛み。
「この味……お前も人間じゃねぇな?」
「っ、痛、い……」
どうして。『餌』なら吸血の痛みを快感に置き換えられるはずなのに。
「なるほどなぁ。お前も『サガラ』ってわけか。しかもその反応……優様の『専属』ってことかよ」
「せん、ぞく……?」
聞き慣れない単語を繰り返す。
「お前は優様のためだけに生まれた『餌』ってこと。だから俺の牙にも反応しない」
「……なん、で」
「そんなの知らねぇよ。でも、お前が『専属』だってんなら気が変わった。……優様のために作られた身体なら、代わりくらいにはなるだろ」
「っ、何を!」
男が僕の腰をいやらしく撫でる。ぞわりと肌が粟立つのが分かった。
「壁に手ついて……は無理か。昨日と同じでいいよな」
先の流れが全く読めない。必死に考えを巡らせたものの、やっと答えが出たのは男の準備が完了してからだった。
「嫌だ!やめろ!!」
彼に強いられたのと同じ体勢を、男の手によって再現される。
「嘘……だろ?」
懇願するようにそう言えば、男は笑って答えた。
「嘘だと思う?」
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