10 / 13
第10話
「離れろ!!」
精一杯の抵抗をするが、それが男に届くことはない。するりとズボンが取り払われるのがわかって、この男が本気なのだと知る。
「残念。まだ反応してないのか」
「当たり前だ……!」
そう言えば後ろから舌打ちが聞こえ、次いで唯一僕を守っていた布までもが脱がされる。
「そんな生意気な口、効けないようにしてやるよ」
男の指が僕の後ろに触れる。彼にしか触られたことのないそこに、名前も知らない男の指が。
嫌だ。嫌だ。僕は、誰ともこんなことをしたくないのにーー。
その時だ。そんな僕の心の声を否定するように、彼が現れたのは。
「そこまでだよ。そこから先は僕だけだ」
彼は僕の目の前に立って、男と僕の間の空間を隔てる。
「優、様……?」
「ありがとう。良にぃに、僕と他の男との違いを教えてくれて」
「……どういう意味ですか」
「最初から全部見てたよ。ついでに言えば、こうやることを狙ってた。だから君には何もしない。その代わり、金輪際二度と良にぃには近付かないで」
「ちがっ、俺は優様が……!」
「僕が良にぃ以外を見ることは無いし、その良にぃに対して手を出した時点で君は敵だよ。
……わかったら早く消えてくれ」
「っ、そんなっ……」
絶対的強者の言葉に、賢明な男は反論できない。僕より強かったその男は、拍子抜けするほど簡単に逃げていった。
だがそれは僕にとって、場の支配者が男から彼に変わったことしか意味しない。
「怖かった?」
何も事態は好転していないはずなのに、彼の言葉を聞くとどこか安心する自分の身体に気が付いた。そして、先刻の男の言葉を思い出す。
ーーお前は優様のためだけに生まれた『餌』ってこと。
思い出せば、得体のしれない恐怖が込み上げてきた。男のせいじゃない、彼に対峙するだけで自然に湧き上がってくる恐怖。
その恐怖は、彼の近くに居るだけで身体が変えられていくような、そんな錯覚を僕に与える。
ともだちにシェアしよう!