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第10話

「離れろ!!」 精一杯の抵抗をするが、それが男に届くことはない。するりとズボンが取り払われるのがわかって、この男が本気なのだと知る。 「残念。まだ反応してないのか」 「当たり前だ……!」 そう言えば後ろから舌打ちが聞こえ、次いで唯一僕を守っていた布までもが脱がされる。 「そんな生意気な口、効けないようにしてやるよ」 男の指が僕の後ろに触れる。彼にしか触られたことのないそこに、名前も知らない男の指が。 嫌だ。嫌だ。僕は、誰ともこんなことをしたくないのにーー。 その時だ。そんな僕の心の声を否定するように、彼が現れたのは。 「そこまでだよ。そこから先は僕だけだ」 彼は僕の目の前に立って、男と僕の間の空間を隔てる。 「優、様……?」 「ありがとう。良にぃに、僕と他の男との違いを教えてくれて」 「……どういう意味ですか」 「最初から全部見てたよ。ついでに言えば、こうやることを狙ってた。だから君には何もしない。その代わり、金輪際二度と良にぃには近付かないで」 「ちがっ、俺は優様が……!」 「僕が良にぃ以外を見ることは無いし、その良にぃに対して手を出した時点で君は敵だよ。 ……わかったら早く消えてくれ」 「っ、そんなっ……」 絶対的強者の言葉に、賢明な男は反論できない。僕より強かったその男は、拍子抜けするほど簡単に逃げていった。 だがそれは僕にとって、場の支配者が男から彼に変わったことしか意味しない。 「怖かった?」 何も事態は好転していないはずなのに、彼の言葉を聞くとどこか安心する自分の身体に気が付いた。そして、先刻の男の言葉を思い出す。 ーーお前は優様のためだけに生まれた『餌』ってこと。 思い出せば、得体のしれない恐怖が込み上げてきた。男のせいじゃない、彼に対峙するだけで自然に湧き上がってくる恐怖。 その恐怖は、彼の近くに居るだけで身体が変えられていくような、そんな錯覚を僕に与える。

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