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第11話

「いやっ、嫌だ、来ないで」 怖い。離れたい。 彼だけに反応する身体を、認めたくない。 「良にぃ……」 「来るなって言ってるだろ!!」 怖いんだ。 彼に触れられるだけで熱くなる身体が。 彼の声だけで早くなる心臓が。 男の言った通り、全て彼のためだけに存在してる証拠に思えて。 「良にぃ、落ち着いて」 彼の腕が、暴れる僕の身体をそっと包む。 嫌なはずなのに、離れたいはずなのに、その香りに絡め取られて動けない。 そんな自分の無意識の行動が怖くて。 「怖い……」 思わず、彼の胸に向かって声が零れていた。 「ごめんね、確かめたかったんだ。良にぃは本当に僕のなのかって」 彼が優しく、抱き締める力を強くして言うものだから。 「っ、それが怖いんだよ……!」 僕は許された気がして本音をぶつけた。 「どうして?」 それは威圧感の無い、柔らかな口調。今までどことなく感じていた不安が、どんどん口から溢れ出した。 「嫌なんだ……っ。生き方を決められてるみたいで。ユウにしか反応しない、この身体が嫌だ……!」 「僕は、良にぃが好きだよ」 「嘘だ……!ユウだって、僕の体質に惑わされてるだけで……っ」 「嘘じゃない。確かに僕も良にぃにしか興奮しないけれど、それは決められた運命なんかじゃなくて、僕の愛の現れだと思ってる」 「うそ、だ……」 「嘘じゃない。ねぇ良にぃ、良にぃは体質に縛られてるんじゃなくて、自分で自分を縛ってるんだよ」 そう言って彼が離れていく。初めて彼と、真っ直ぐに目を合わせた気がした。 「僕は狡いから、こうして良にぃの体質を利用してきた。でもずっと欲しかったのは、良にぃの体質じゃなくて良にぃ自身だ。 ……だからお願い、僕を見て」 それは優らしくない言葉。支配者である優には似合わない、縋るような、告白めいた言葉。 でもそれはしっかりと、僕の目を覚ました。 「僕、自身…….?」 彼は頷いて、ゆっくりと僕の唇に彼のそれを重ね合わせる。今までで一番優しいキスは、簡単に僕の心まで入り込んできた。

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