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第12話
彼との生活は何も変わらない。
学校では他人のように過ごして、家では濃密な情事混じりの食事を摂る。
変わったのは、彼を見る僕の目だけ。
「良にぃ……」
彼に抱かれている間、嫌悪感を抱くことがなくなった。
こうして彼に抱き締められながら寝るのが、一番安心できるようになった。
結局僕は、彼がいつか離れていく未来に怯えていただけなんだ。
自分だけが彼に溺れて、いつか彼に見放される日が来るのが嫌だっただけなんだ。
彼の言う通りだ。僕は本能に抗うどころか、本能に執着するあまり本能と反対に生きることしか見えていなかった。
彼の本質を見ようとしなかったのは、他でもない僕自身。
彼を見るようになって分かったのは、彼は僕をちゃんと愛してくれていたということ。
そして想像以上に、僕は彼に依存しきっていたということ。
そもそも彼の方が僕より数倍忙しいはずなのに、文句1つ言わずに毎日ご飯を作るなんて、余程の愛がないとできないと思う。
「優……ありがとう」
小声で、本当に小声で、そんなことを言ってみる。ここまで僕を愛してくれるのは、きっと後にも先にも彼しかいないから。
聞こえていたのか、偶然か。それとも僕の気のせいなのか。彼の抱きしめる力が、僕の言葉に応えるように少しだけ強くなった気がした。
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