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第3話
柏陽家から縁を切られる打開策も見つからないままに、無為に日常を過ごしていた5月のある日、この学園に転入生がやって来ることになった。
「転入生…ですか?こんな時期に?」
「ああ、どうやら理事長の友人の子供らしくてな、役員の誰かが迎えに行って欲しいんだと。」
副会長の問いかけに、会長はデスクの中央に転入生の書類を投げた。
「「ねーねー、かいちょー。どんな子?どんな子ー?」」
庶務の二人も興味津々で問いかける。
「気に……なる……。」
「「えー、内匠も興味持つなんて珍しいねー?」」
「俺も~、気になるかなぁ~。」
「チッ、お前は黙ってろ。」
「はいは~い。怒らなくても黙るよぉ~。」
相変わらず会長は、俺にだけ当たりが強い。
周囲も、それを当たり前のように受け止めている。
「書類には最低限しか記入されていない。だから、どんな人間が来るのかわからん。ただ1つ言えるのは、あの柏陽家の長男と言うだけだ。
名前は、柏陽 太陽」
「は?は…くよう…け…?だって?」
柏陽家と言えば、義弟だが、どんなに試験を受けても合格点にはほど遠かったと聞いている。
そうか、裏口か。
あの溺愛している両親が、金を積まないはずがない。
「どうした会計。ああ、お前の家は柏陽家の遠い分家だったか。」
「かいちょ~、そんなことまで知ってるなんて俺のストーカー?」
「冗談でもふざけたこと言うんじゃねぇ、カスが。」
「え~、ひっどぉ~い。」
「バ会計は放っておいて、この時期は、新入生歓迎会の打ち合わせで忙しいのですが。」
「「ならそこの暇チャラ男に行かせればいいんじゃなーい?」」
「賛……成……。」
「一応、理事長のご友人の息子だからなぁ。これが真琴だったら任せられたんだが、こいつだしなぁ。奏、行ってくれ。」
暗に、なぜお前がここにいると指摘される。
俺には、どうしようもないのに。
むしろ、断れるならば断りたかった。
「え~、俺ってそんなに信用なぁ~い?」
「ねぇな。」
「ないですね。」
「「ないよー。」」
「な……い…。」
まぁ、願ったり叶ったりだ。
義弟と顔を会わせたのは、幼い頃の1回だけ。
しかも、あいつには俺が兄だとは知らされてないだろう。
だが念のため、なるべく顔を会わせないようにしなければならない。
「で、私はいつ迎えに行けば良いのですか?」
「今日の9時だそうだ。」
「9時って、あと10分切ってますよ!?あの校門までは30分かかります!」
「ああ、だからすぐ行ってこい。」
もう、しかたないですね、と怒りながら、副会長は急いで生徒会室を出て行った。
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