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第5話
食堂の扉を開けると、中から歓声が響く。
「キャー、生徒会の皆様よ!」
「会長様までいらっしゃるなんて!!」
「珍しい、今日は全員揃っていらっしゃる!」
ここにくる度に思うが、お前らは本当に男子なのかと問いかけたくなる。
今の俺が言えたことではないが。
「あっ、みんな!」
ドンッ
可愛らしい声と同時に、俺を押し退け誰かが生徒会メンバーへと近づく。
俺を押し退けた本人にとって、生徒会役員のみんなの中には、俺は入っていないからだ。
「ああ、真琴か。久しぶりだな。」
「久しぶりですね真琴。元気でしたか?」
「「真琴だー!久しぶりー!」」
「真…琴……ひ…さし…ぶ…り。」
「うん、みんな久しぶり!僕は見ての通りげんきだよ!みんなは?」
「そこのバ会計が仕事をやりさえすれば、元気なんだがな。」
嘘だ。彼らに迷惑をかけたことなど1度もない。
「え~、俺はちゃんと仕事してるよ~。」
「白馬君、嘘はダメだよ?本当のこと言わなくちゃ。やっぱり、僕じゃないとダメみたいだね…?」
小首をかしげ、小柄な身体を使った上目遣いで媚びを売る。
気持ちが悪い、反吐が出る。
相手を気遣っているフリをしながら、さりげなくけなすのも上手い。
「本当ですね、何でこんな奴が当選したんでしょう。」
「え~、酷いよふくかいちょ~。」
「まあ、みんなが選んだことだから仕方ないよね…。」
シュンと沈んだその姿は、ひどく庇護欲をそそるものに映るのだろう、普通は。
こっちは、成りたくて成っているわけではないのだが。
俺以外の生徒会メンバーが彼を慰めていると、馬鹿デカイ声が聞こえた。
「あー!お前、さっきの!えっーと、えっーと、奏!」
「太陽!こんなとこに居たのですね!私の名前を覚えてくださって嬉しいです!」
「俺は偉いからな!友達の名前を覚えるのは当たり前だ!」
「「君が奏のお気に入りの転入生?わー、変な頭ぁー。」」
彼らが言った通り、転入生の容貌は、酷く浮いていた。
1年の人気者の優等生と、不良を引き連れていただけではなく、その容姿も特異だった。
顔が見えないくらいのモジャモジャ頭。
指紋だらけで前が見えていなさそうな瓶底メガネ。
極めつけには、その声の大きさ。
この場においては、酷く不釣り合いな格好だ。
「「ねえねえ、どっちがどっちなのか当てっこクイズしよー!」」
「右の僕が翔馬でー。」
「左の僕が天馬ねー。」
「「それじゃ、行くよー」」
グルグルグル
見ている方の目が回るくらい目まぐるしく二人の立ち位置が入れ替わる。
「「はいっ、どっちがどっちでしょー?」」
「左が翔馬で、右が天馬だろ!」
「「えー、何でー?何で分かったのー?」」
「そんなもん、見れば分かるだろ!」
「えー、ホントかなぁー?」
「でも、マグレかもしれないしー、もう1回!」
その後、何度も入れ替わりクイズを行っていたが、義弟はことごとく正解していた。
「ぜー、ぜー、スゴいね君ー。」
「僕らの見分けは、僕らの両親でも出来ないのにー。」
「何で間違えるんだ?翔馬は翔馬で、天馬は天馬だろ!」
「「太陽……。太陽好きーーーー!」」
ガバッ
「うおっ!?」
二人がかりで飛び付かれ、床に倒れそうになる義弟。
「あ…ぶな…い…!」
とっさに書記が支え、事なきを得た。
「翔…、天…、あ…ぶない…から…飛…び付く…の禁…止。」
「そんなこと言うなよ!俺はいつでも大丈夫だぞ!」
「!?お…れ……の…言…葉…分…かる…?」
「当たり前だろ!何で分からないんだ?」
「聞…き取…り辛…かった…り、…めん…ど…くさく…な…い?」
「そんなことあるわけないだろ!」
「お…れ…、周…藤…、内…匠…。よ…ろし…く。」
「よろしくな!内匠!」
義弟の周りには、副会長、庶務の双子、書記、とそうそうたるメンバーが集結している。
その様子を、会長は面白そうに見ていた。
こんな珍しい人種には、率先して絡みに行きそうな会長が、どうしたんだろうか。
「あー!お前、カッコいいな!名前、何て言うんだ?」
しまった。会長に気を取られて油断してしまった。
「俺~?俺はね~、白馬 亮だよ~。」
「太陽!奴に近づいてはいけませんよ!」
「「そーだよー!会計だけはダメー!」」
「太…陽…ダ……メ…。」
「何でだよ!なあ亮!何をしたんだ!」
「え~、俺ぇ?何もしてないよ~?」
「嘘おっしゃい!太陽、こいつはね、自分の親衛隊をセフレとして扱っている、最低な下半身野郎なんですよ!」
「セっ…セフレ!?だっ、ダメなんだぞ!セフレなんて!自分が傷つくだけなんだからな!」
「え~、そんなこと言われても~。」
「分かった!亮は寂しいだけなんだろ!俺が友達になってやるから、セフレなんてやめろよ!」
「う~ん、君みたいな容姿の子には食指が動かないかなぁ~?」
「なっ!?太陽になんてことを!」
「人を見た目で判断しちゃいけないんだぞ!」
俺の場合は、お前が嫌なだけなんだが。
何で伝わらないんだろう。
傲慢で、自己中心的な愚かな子供。
正直関わりたくもない。
「仕方ないよね~。無理なものは無~理~。」
「そんなこと言うんだったら見せてやる!」
「は?」
えっ、ちょっと待て。何を見せる気だ。
義弟は、モジャモジャしている髪を掴んで放り投げ、眼鏡を床に投げ捨てた。
「どうだ!可愛いだろ!これで俺と一緒にいればいいだろ!」
現れたその姿に息を飲む。
パッチリとした大きな目。
日本人にしては白い肌。
愛らしい頬に、鮮やかな唇。
そこには、記憶にあるよりも成長した義弟の顔が存在した。
……継母と瓜二つの。
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