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第6話
思わず漏れそうになった罵声をこらえ、奥歯を噛み締める。
必死に笑顔を作り、義弟を見つめ返すことだけに全力を注ぐ。
「おい、亮!どうだ?」
「う~ん、そうだなぁ。」
好みじゃない
そう告げて離れようとしたとたん。
ピロリン
滅多に鳴らない俺のスマホから、メールの届く音がした。
「ちょっとごめんね~。」
「俺が聞いてるのに無視はいけないんだぞ!聞いてるのか!」
騒ぎ立てる声を無視して、念のためスマホを確認をする。
差出人は、父からだった。
随分と久しぶりに見る父の名前を不審に思いながら、文面を見る。
「チッ!」
舌打ちが漏れてしまい、慌てて周囲を見るが、幸い気付いていないようだ。
父からのメールには、義弟のボディーガードをするように命令されていた。
当然のことながら、拒否権はない。
ボディーガードと言ったら、常に義弟にくっついてなければ。
「おい!聞いてるのか!亮ったら!」
「あっ~、ごめ~ん。」
ニヤニヤと笑いながら義弟に向き合う。
そして、さも今気付いたかのように、称賛の言葉を吐く。
「そんな可愛い顔を隠してたのか~。もったいないね~。」
俺は薄ら笑いを浮かべながら義弟に近づき、彼の顎を持ち上げた。
憎らしい顔が間近にある。
「君は可愛いね。俺、君のことが気になってきたかも。」
これからよろしくね
意図して、多少色気を含ませた低い声で耳にささやく。
すると、
「なっ、なっ、なんだよ!」
その言葉とは裏腹に、義弟の顔は朱に染まり、その目は期待するかのように潤んでいた。
目は口ほどにものを言う。
その言葉を体現したかのように、あさましい義弟の姿。
コイツを好きになることは、おそらく一生無いだろう。
「この色魔!今すぐ太陽から離れなさい!」
「あっ!」
副会長の声に驚いた義弟がよろける。
当然、俺と義弟の距離は近いままだ。
必然的に、顔がぶつかる、いや、キスをしそうになる。
すると、
グイッ
後ろから伸びてきた手が、俺の身体を後ろに引っ張る。
ポスン
誰かの胸に当たる感触がし、斜め上に視線を向けると、会長がいた。
義弟の方は、副会長に抱えられてる。
「は?えっ?なに?かいちょ~、どうしたの~?」
内心、助かったとホッ、と息を吐く。
でも、会長は先ほどまで真琴と一緒に居たはずだ。
いつの間に、こっちへ来てたんだろうか。
「お前、近すぎなんだよ。」
「え~、だって可愛いじゃ~ん。」
「そういう問題じゃない。」
「なんでかいちょ~に指図されなきゃいけないのさ~。」
「うるさい。黙って俺に従ってろ。」
「え~?」
なんか理不尽な要求を叩きつけられた。
何なんだろうか一体。
その時、
「あー!お前!お前もカッコいいな!名前何て言うんだ?」
「俺か?俺は洸劉院 雅也だ。会長もしくは洸劉院先輩と呼べ。」
「そんなこと言うんだったら言うなよ!俺たち友達だろ!」
「はっ?雅也があんたの友達?ふざけないでくれる?」
「なんだ?羨ましいのか?お前可愛いな!名前何て言うんだよ!」
「僕は桐生 真琴。覚えなくていいよ。君と親しくするつもりはないから。」
「真琴!こんな可愛い太陽に何てことを言うんですか!」
「「いくら真琴でも、太陽の悪口はダメだよー!」」
「真…琴…ダ……メ…。」
このままでは、旗色が悪いと感じたのか会長へすり寄っていく。
よって、会長の側にいる俺は邪魔なのだろう。
退けと、憎々しげな目でこちらを見る。
俺は、さりげなく会長の側を離れようとしたが、反対に会長に腰を取られて自力では離れられなくなってしまった。
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