7 / 12
第7話
「何を騒いでいる。」
膠着状態に陥ったこの場に、新しい声が響く。
視線を向けると、抜き身の刀のような、隙のない美丈夫。
現れた風紀委員長の眉間には、深いシワが刻まれていた。
「あっ、ふ~きいいんちょ~。」
「なんだ会計、その状況は?」
「え~?あ~…。」
俺はいまだに会長に腰を抱えられたままだ。
「見ての通り…かなぁ?かいちょ~、もう離してよ~。」
「チッ、仕方ねぇな。」
なぜ仕方ないのかはあえて突っ込まず、とりあえず、離れたことにホッとする。
風紀委員長は、噂で人を判断せず、直接見て自分で判断しようとする人だ。
普通は良い人なんだろうけど、俺は、全てを見透かされそうで苦手な人だ。
「あー!お前もイケメンだな!名前!名前教えてくれよ!」
「なんだ。そいつが騒ぎの元凶か。」
「俺のことをお前って呼んじゃいけないんだぞ!俺は柏陽 太陽だ!太陽って呼べよ!」
「そうか柏陽。少し黙っていろ。」
「なんだよ!名前で呼べよな!お前の名前教えろよ!」
「俺は松陵 棗だ。風紀委員長をしている。今回の騒ぎの対応をすることになった。」
「何ですか風紀は。太陽に向かってそんな態度をとるなんて。」
「「そーだよー!太陽には優しく接してあげなきゃー。」」
「太…陽…か………わいそ…う…。」
「だが、騒ぎを起こしているのは事実だ。もうすぐ休み時間も終わりだ。授業へ戻れ。」
「はいは~い。じゃあ、俺は生徒会室に戻るね~。」
これ幸いと、真っ先に撤退することにする。
「風紀の言うことを聞くようで癪にさわりますが、私も戻りましょうかね。」
「「僕も僕もー!」」
「も……ど…る……。」
「おいみんな!どこ行くんだよ!友達はずっと一緒に居なきゃいけないんだぞ!」
「確かにそうですね!太陽、生徒会室にいらっしゃい!」
「「副会長ー名案だねー!」」
「そ……れが……い…い…。」
あんなうるさいのと四六時中一緒にいるのは勘弁して欲しい。
放課後と休み時間は付いている予定だったが、まさか義弟は授業を出ない気なのか?
「生徒会室への部外者の立ち入りは禁じられているはずだ。」
「では、今から太陽を会計に任命します。このチャラチャラした奴が居なくなって一石二鳥でしょう?」
「生徒会役員の任命権は、個人に与えられているものではないだろう。」
「それなら、近いうちに生徒総会を開きます。こんな可愛い太陽を役員にしたくない人なんで存在しないでしょう。」
「会計になったらみんなとずっと一緒に居られるのか!なら、俺会計になる!」
あいつが役員になるのか。仕事はしないだろうな。
それに会計の席は1つだけだ。どうする気なのだろうか。
ああ、俺をリコールするのか。
「おい会計、お前はそれで良いのか。」
「う~ん、別に~。仕事が無くなるならそれでいいかなぁ~?」
「俺が会計になったら亮は辞めなきゃいけないのか!それだったら俺、会計やんない!」
「ああ、太陽!なんて優しい!」
「「こんな奴に気を遣う必要ないよー。」」
「そ…う……だ…よ…。」
「話しはまとまったか。そろそろ授業が始まると言っているだろう。」
「うるさいですね、風紀。さあ、太陽行きましょうか。」
副会長、書記、庶務の役員たちは、義弟を連れて生徒会室へと戻っていった。
「ったく、アイツらは…。」
「あれぇ~?かいちょ~は太陽の所に行かないのぉ~?」
「ああ…まぁ…な。」
珍しく歯切れの悪い会長は、俺を一瞥すると、俺の手を掴んだ。
「え!?なになに~?」
「騒ぐな。俺たちも生徒会室へ戻るぞ。」
「え~、かいちょ~、戻るだけなら放してよ~。」
「お前逃げるだろ。」
「逃げないから~。」
「黙れ。行くぞ。」
「わぁ~、俺様ぁ~。」
俺を引っ張り生徒会室へと連れていこうとする会長。
歩きづらいから話してほしい。
「待て洸劉院。」
食堂の扉の前に差し掛かったとき、風紀委員長が会長に声をかけた。
「チッ、風紀が何の用だ?」
「お前、あの状態を容認する気じゃないだろうな。」
あの状態とは、義弟に群がる役員たちのことだろうか。
「ハッ、まさか。」
会長は、風紀委員長の言葉を鼻で笑うと俺を引っ張り食堂を後にした。
どうでもいいけど、放してほしい…。
ともだちにシェアしよう!