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第8話 風紀委員長side
俺には、前世から恋をしている人がいる。
俺の前世は、しがないサラリーマンだった。
一流と呼ばれる企業でそれなりの地位につき、部下を何人か抱えていた。
アイツは、そんな部下の1人だった。
そいつは不器用なほど真っ直ぐで、器用に何でもこなすけれど、やっぱり不器用な奴だった。
人一倍愛情が欲しいくせに、そんな気配は微塵も見せず、常に笑顔で壁を作っていた。
最初は常に笑っていることを胡散臭く思ったものだが、ふと、あれはアイツの身を守る鎧なのだと気づいた。
それに気づいたときには、もう堕ちていたのだろう。
その日を境に、アイツのことを気にするようになった。
それからはアイツと仲良くなるために下心を隠し、様々な取り組みを行った。
よく飲みに誘うのも、好物を食べたときに張り付いた笑顔が緩むのを見たいがためだ。
上司と部下の関係だが、俺はそれに満足していた。
だが、俺は決して告白をしようとはしなかった。
第一に、男同士ということでアイツに嫌われたくなかったのだ。
互いに独身であったし、奴は人嫌いの気がありそうだったから安心していた。
この関係のまま、変わることなく、互いに独り身のまま人生を終えるのだと。
だがそんな生ぬるい友人関係が数年続いたある日、俺は地方支社を任されることになった。
ようは転勤だ。
転勤先にアイツを連れていくことは出来ないので、会おうとしなければ短くとも数年は会わないことになる。
まあ、アイツなら恋人は作っても結婚することはないだろうと思い、俺は変わらず想いを伝えずに支社へと移った。
それが間違えだとは気づかずに。
転勤をしてから数年後、役目を勤めあげ、本社へと戻ることになった。
すっかり住み慣れた地方のアパートもこれで見納めだ。
久しぶりに見るであろうアイツの顔を思いだし、にやけながら自分の部屋のポストを開ける。
中には、結婚式の招待状が入っていた。
誰からだろうかと予想をたてながら、白い封筒を開ける。
予想はどれも外れていて、そこに書かれていたのは、アイツの名前だった。
呆然としたまま何日かが経ち、気が付けば俺はアイツの結婚式に出ていた。
なぜ想いを伝えなかったのだろうか、後悔ばかりが胸をついた。
けれども幸か不幸か、俺は再びアイツの上司となった。
正直、新婚のアイツの側に居ることは辛いものがあったが、それよりも顔を見ることができるのが嬉しかった。
アイツと上司と部下に戻った日から、アイツをしょっちゅう飲みに誘うのを辞めることは出来なかった。
新婚で悪いと思ったが、本当に嫌なら断るだろうと言い訳をつけて。
いつものように飲みに誘ったある日、珍しくアイツがベロンベロンに酔っぱらった日があった。
訳を聞くと、どうやら奥さんが妊娠をしたようだ。
叶うはずのない恋だとは思っていたが、子供まで出来るとは。
俺は、泣きそうになるのを堪えながら、おめでとうと伝えた。
すると
「まあ、俺の子ではないんですけどね…。」
「えっ?」
酔っぱらって口が滑ったのか、ふとそんなことをこぼした。
その日は、それ以上口を割ることは無かったが、別の日に大量に酒を飲ませると、ポツリポツリと語りだした。
話の内容である、アイツの生い立ちは恵まれたものではなかった。
奥さんには申し訳ないと、繰り返し口にしていた。
泣きながらこぼすアイツを宥めながら、俺は愕然とした。
謝るのは俺の方だ。
新婚の仲を嫉妬で引き裂いたのは、俺なのだから。
再び後悔ばかりが俺を襲い、償いとは言えないが、俺は生涯アイツを想いながら励まし続けた。
こんな優柔不断で未練がましい男が俺の前世だ。
俺は、この記憶を、抹消したくてしかたがなかった。
だがある日、運命に出会ったのだ。
白馬 亮
こいつはアイツの生まれ変わりだと、すぐに気づいた。
アイツは、亮は変わらず愛に飢えた顔をしていた。
この時ばかりは、記憶を持っていたことに感謝をした。
今度こそアイツを俺の手で幸せにしてやる。
そう決心をして、今日も亮に話しかけるのだ。
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