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第9話 会長side
白馬 亮
気に食わないな。
それがアイツの第一印象だった。
中等部までの生徒会は、変わらないメンバーで構成されていた。
ところが高等部となって、いきなりアイツが現れた。
書類を見る限り、小学生の頃に編入してきたようだが、あんな目立つ奴なら記憶に残っているはずだ。
だが、俺の幼い頃の記憶には不自然なほどアイツは存在していなかった。
俺の中にあるアイツの記憶の始まりは、中学三年生の頃からだ。
その頃のアイツの格好は今より幾分か大人しかったが、やはりその派手な容姿は目立っていた。
いつもヘラヘラとしていて、能天気に過ごしているように見えた。
だが、それは違ったのだ。
高等部に進学し、俺はアイツと初めて顔を会わせた。
中等部と変わらずヘラヘラ笑って、仕事も最低限しかせずに、いつもどこかへ、フラフラと居なくなっている。
これなら、真琴の方が良かったな。
その時の俺は、そう思っていた。
真琴は、気遣いも出来て、意見をまとめてることも出来るし、俺たちも信頼している。
なぜこんな奴が選ばれたのだろうか…。
俺は不思議でしょうがなかった。
アイツへの不満を抱えていたある日、これまでの不満をぶち壊す出来事を目撃した。
放課後、職員室から生徒会室へ運ぶ書類を取りに行った帰りのことだった。
人気のない校舎で、真琴を見つけたのだ。
俺が声をかけようとしたその時、真琴が誰かと会話する声が聞こえた。
やましいことは何もないのに、とっさに階段に隠れる。
「ちょっと白馬!聞いてるの!」
「聞いてるよ~。そんなにカッカしなくてもいいじゃ~ん。」
「ふざけてないで真面目に聞いてよ!」
どうやらアイツと話しているようだ。
よくよく考えると、俺が隠れる必要はどこにもない。
真琴のもとへ向かおうと、一歩踏み出した時だった。
「いいからあんたは黙って役職を下りろって言ってるの!」
「う~ん、それは無理かなぁ~…。」
「何でよ!あんたどうせ仕事もろくにしてないんでしょう!会長に迷惑ばっかりかけて!あんたなんか会長たちに相応しくないの!」
相応しいのは自分だと声高に言い張る真琴。
アイツは、そんな真琴を見て困ったように笑みを浮かべていた。
俺はと言えば、一歩を踏み出した状態で固まっていた。
前々から薄々と真琴の苛烈な正確には気づいていたが、これほどまでとは。
これではまるで、子供の癇癪だ。
一方、アイツがあまり生徒会室にいないのも事実。
アイツはどう対処するのだろうかと、興味が湧いたので、再び静観することにした。
「まこっちゃんは、」
「あんたはそんな呼び方しないで!」
「真琴は、」
「名前で呼ぶのも許さない!」
「桐生は、」
「あんたごときが僕を呼び捨てにする気!ふざけないでよ!」
「はぁ。桐生さん。これでいいかなぁ~?」
「フンッ、それで許してあげる。さっさと本題に入ってよ。」
「桐生さんはさ~、俺が仕事してないと思ってるけどね~、俺がかいちょ~たちに迷惑をかけたことは一度もないよ~。」
アイツの言葉で気がついた。
そういえば、アイツが書類の提出期限を守らなかったことは一度もない。
むしろ、庶務の双子の方が守っていなかったりしているくらいだ。
アイツがいることで、会議の際も上手くまとまっている。
真琴がいるときは、今よりも書類の提出は遅れ、会議では、みんなの言葉を語る真琴の我が儘がまかり通っていた。
それがアイツになってからは、生徒の意見や希望も取り入られるようになり、生徒会の評判も上がっている。
悪いのは、アイツ個人の評判だけだ。
俺たち内進生は、高等部進学の半年前まで生徒会を続けている。
年齢を考慮したとしても、真琴は中等部とは言え3年間勤めているが、アイツはまだ半年だ。
そう考えると、アイツは真琴より、はるかに優秀であるということになる。
面白い。
俺は、アイツへの興味が沸き上がるのを感じた。
これだけ優秀であるのに、悪い評判を甘んじて受け止めているのには訳がありそうだ。
いつか、その訳を話してもらえるくらいの仲になれるだろうか。
興味以外にもう1つ浮かんできた感情に戸惑いながら、俺はそう考えていた。
「あんた、嘘をつくのも大概にしてよね!」
「嘘じゃないんだけどな~…。」
「このっ、いいからあんたは黙って辞めればいいの!」
これ以上静観していれば、真琴はさらにヒートアップしそうなので、そろそろ出ることにする。
「ああ、真琴か。久しぶりだな。」
「えっ、あっ、会長!?今の聞いて…。」
「何のことだ真琴?何かあったのか?」
「何もないよ~。俺の仕事が遅いから、桐生さんに教えてもらってただけ~。」
なぜアイツは嘘を着くのだろうか。
よほど、自分の評判を悪くしたいらしい。
「そっ、そうなんだ!もう、白馬君ったら、もっと真面目にやってよね!」
真琴もひとまずその嘘に乗ることにしたようだ。
この変わり身の早さには恐れ入るな。
俺は、若干ひきつった笑みを浮かべてしまう。
「はいは~い。それじゃあ、俺はこれから可愛い子ちゃんたちとの約束があるからまたね~。」
「あっ、ちょっと白馬君!」
気が付けば、アイツはその場から居なくなり、俺と真琴の二人だけが残されていた。
俺はこの日から、アイツ、白馬 亮に少しの興味と、多くの初めての感情を持つことになったのだ。
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