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02. 「虚勢」
にっこりと目を細めている慧は、身動きが取れない僕に近づき、ベッドに腰を下ろした。目を細めて慧を見る。僕は、そこで初めてここが保健室だとわかった。眼鏡がないせいではっきりとはわからないが、真っ白なカーテンで囲われている。そういえば、保健室に駆け込んだ気がした。
「……慧?」
慧は何も言わず、ただ微笑んだままで僕のことを見下ろしている。縛られた手足を見ると、ベッドに繋がれていて本当に動くことができないのだとわかった。
慧に見下ろされるなんて、いつもならあり得ないこの光景にも、この状況にも、頭が全くついていかない。
「なんか、言ってくれよ、慧……っ」
ぐっと掌を握りしめて、慧のことをじっと見つめた。なんだ、なんなんだこれ。
自分でも驚くほど、声が震えた。縋るように響いてしまった。慧はそれに、さっきよりもたっぷりと笑みを深める。
と同時に、僕の着ていたシャツの首元に手をかけ、勢いよくシャツを破いた。
「っ……!」
一瞬、身体が引っ張られて、繋がれた手首が痛んだ。僕が顔を歪めると、慧の笑みは一層、深くなっていく。
「さ、とる」
「……何? 要くん」
息が、上がる。
名前を呼ばれただけで。
じっとりと慧を睨みつけるが、慧は全く怯む様子もなく、むしろどこか嬉しそうに頬を緩めて僕の顔に自分の顔を近づけた。ああ、こんなに近くで慧の顔を見るのは久しぶりだ。
「っ、シャツ、破くなんて……っ」
心臓が、ドクン、ドクン、と大きく鳴る。近すぎて、慧にも聞こえてしまいそうだった。
慧が僕の顎を指で掴んだ。もう、これからどうなるのか自分でももちろんわかっているのに、どういうわけか僕は、それを当たり前みたいに心のどこかで受け入れてる気がした。さっきまで、頭が理解できなくて、声まで震えていたって言うのに。
「ほんと、もう――」
もしかして、僕、嬉しくて震えてたのか。
「せっかちだね、君は」
頭に浮かんだ考えを否定するように言った精一杯の虚勢は、慧の唇に奪われて消えていった。
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