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03. 「告白」
――一時間前――
「で、告白は終わったのか?」
放課後、図書館の隅で、僕と山内はフランス文学の本を探している振りをしながら、ヒソヒソと話をした。
「あー、いや……実はまだしてないんだよ」
「は? 報告のために僕を呼び出したんだろ」
珍しく煮え切らない山内の態度に、僕はここが図書館だってことを忘れて声を荒げてしまいそうになる。
「そもそも、相手は誰なんだ」
「いやっ、それはー……」
「わかった、じゃあ、クラスは? うちの学校の子なんだろ?」
「あー……学年は一緒」
「可愛い系? 綺麗系?」
「うーん、どっちもだけど、どっちかって言うと綺麗の方が強いかな」
「面食いだな。じゃあ次は……」
うーん、と質問を考えていると、ふと、山内の表情が真剣になる。それは、今から告白しに行くから緊張しているというより、どこか思いつめたような感じで、僕は思わず、
「お前、大丈夫か?」と山内の額に手を添えた。
「なっ……!」
「いや、熱でもあるんじゃないかと思って。慧も熱出すとそういう渋い顔に――」
一緒に帰れないと告げた時の、悲しそうな慧の表情が頭をよぎった。胸元を叩かれたみたいに、心臓が跳ねる。――やっぱりなんか、おかしい。
「……熱はないみたいだな」
「当たり前だろ、やめろよな」
「悪い」
山内の額から手を離す。
「で、告白しないなら、僕は帰ってもいい?」
「えっ、ちょっ、待てよ! 冷たいやつだな!」
「うるさいな……」
溜め息をこぼすと、山内はあからさまに傷ついた顔をした。……ああ、もう。
「ちゃんと告白するんだな?」
「う、うん」
「じゃあ、もうさっさと告白してきなよ、それまで教室で待っててやるから」
そう言って山内に背を向けた、その時。
「あ、あのさ、上地」
「え?」
山内に呼び止められて振り返る。
そこには、俺のことを真っ直ぐに見つめる山内が立っていた。
「俺、姫……多比良のこと、好きなんだ」
「……え?」
そういうのいいから、って笑おうとしたのに、山内の真剣な表情が僕にそれを許さなかった。空気が、一気に冷えていく気がした。指先が、冷たい。なのに、喉元に出かかった言葉は燃えるように熱を持っていて、うまく息ができない。
「……要くん?」
後ろから、慧の声がした。
振り向いて、気が付いたらそのまま、慧の手を引いて走り出していた。
だめだ、こんなこと。きっと山内は決死の覚悟で慧をあそこに呼び出したのに。きっと色々悩んだ末に告白しようと決めたはずなのに。
頭の中ではそんなことがたくさん浮かぶのに、それは全部、身体を切る風に運ばれてそのままどこかに消えてしまう。
「っ、要くん……!」
僕に引っ張られる形で走っている慧が、少し苦しそうに僕の名前を呼ぶ。通りがかった保健室の扉を開けると、中には誰もいなかった。
「……要、くん」
慧が、僕の名前を呼んだ。
慧の頬はうっすらと赤くなっていて、もう、何も考えられなくなってしまう。
僕は自分の心臓がどうしてこんなに高鳴っているのか、もう、自分でもよくわからないまま、慧に口づける。
「っ、慧……」
そして、そのまま意識を手放した。
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