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第5話

「おはよう」  ユウチは、教室に入る時、大きな声で挨拶することにしている。  直接、面と向かって挨拶することが出来ない彼に向けた言葉。  その彼は、文庫に目を落としたまま、顔を上げない。  でも、ちゃんと挨拶を受け取ってくれていることを知っている。  それで、満足している。 「ユウチ。行くよ」  休み時間のたびにシュウはやってくる。  昼休みや空き時間は、こうやって教室の外に連れ出される。 「次、うちのクラスと体育でしょ?」 「プールだろ? あんな野獣の中に裸のユウチを放り込めるか? 体育は休む」 「見学届を出さなきゃ……」 「そんなもの必要ない……ほら、法人棟に行くよ」  この星稜学園の法人業務を取り仕切っているのは、4階建ての法人棟。  入試や広報、法務等の事務部門が集まっていて、最上階は役員室になっている。  その一角にある理事室は、シュウの叔父のものだ。  名前だけの理事なので、年に数回ある理事会の時しか使わない。  どのように交渉したのか知らないが、叔父から鍵を借り受けたシュウは、この部屋を使い始めるようになった。   あれから、毎日のように体を繋いでいる。最近のシュウは、常に焦っていて余裕がなく、ひどく刹那的だ。 「もっと、足を開いて」 「んっ、む、ムリっ」 「無理じゃないっ」  シュウは、着衣のままゆったりとソファに腰掛け、膝の上にユウチをのせた。  ユウチは、子供がお尻ぺんぺんされるみたいに四つん這いの姿勢になる。  ズボンとパンツはすでに取り去られ、下半身はむき出しだ。  シュウは左手でユウチのペニスを扱きながら、右手で尻タブを力いっぱい叩いた。  ヌチャヌチャと卑猥な水音の合間に、パシンと乾いた音が響く。  真っ白な滑らかな肌に、ピンク色の手形がくっきりと浮き上がる。 「……うっ……」  ユウチは、目を閉じて奥歯を噛みしめた。  そうしていないと、舌を噛んでしまうからだ。  シュウは、何度も何度も手を振り上げた。 「ちっとも、勃たない。覚えの悪い子は、もっと罰を与えなくちゃダメだね」 「…ひっっ……」  シュウが懸命に扱いても、ユウチのペニスは萎えたまま。  入学式直後の発情期以来、勃起することはなかった。  数十分叩き続けた。  尻とペニスが真っ赤に腫れ上がっている。  諦めがついたのか、ようやく手を止めた。 「ユウチのお尻も痛いかもしれないけど、叩く僕の手だって痛いんだよ? これは愛のムチだ。ユウチがちっとも快感に素直にならないから」  勃起不全を治そうと、シュウはあらゆることを試した。  前立腺を刺激してトロトロに快楽を与えたり、媚薬や道具を使ったり。  そして、尿道攻めやスカトロまで試した。  ノーマルからアブノーマルまで、考えられるものを片っ端から試しているが、今のところ効果はない。  どこかから聞きつけて、今日はスパンキングにチャレンジしたのだろう。  シュウは、ガチャガチャとベルトを外すと、凶器のようにそそり立った長くて太いペニスを取り出した。  すでに、先走りの液で、ヌラヌラと濡れている。  それを、ユウチの後孔にゆっくりと突き立てた。  シャツを捲りあげ、背中の火傷痕に唇を落とす。 「うっ、うぅんっ…っ…」  異物感と粘膜を擦りあげる刺激が痛みとなり、ユウチを襲う。  けれども、その痛みは我慢できないほどではない。  以前は、後孔で快感を得ることが出来ていたし、勃起もしていた。  今は、発情期の最中であっても、勃起も射精もしないしオーガズムもない。  どんなに頑張っても治癒はないと、二人ともわかっている。  原因も、うすうす気づいている。  ただ、認めたくないだけ。  シュウの気が済むまで付き合うつもりではいるが、内心では不能で不感症のユウチのことは気にしないで、自分の快楽だけを追って欲しいと願っている。  シュウはユウチの表情を見ながら、「そろそろ、動いても大丈夫?」と尋ねた。  ユウチが軽く頷くと、前立腺のしこりを刺激するように、ゆっくりと動き始める。 「いい、それ、気持ちがいい」  目を閉じて、気持ちが良さそうな表情を作る。  本当は、自分勝手にピストンしてもらって構わない。  こんな自分に、気遣いや優しさは必要ない。  演技に騙されて、シュウの心の負担が減ればいい。  体の奥で、シュウの雄が弾けた。  いつもなら、すぐに体を離すのに繋がったまま。  目を開けると、シュウが泣きそうな顔でユウチを覗き込んでいた。 「最近、父親の気持ちがわかるんだ」 「え?」 「あの人を許せなかった気持ち……きっと、あの人に発情期がきたのが許せなかったんだ。だって、番になったら普通は発情期はこない。なのに、あの時はきた。それって、別のオスを求めていたってことだろ? 心は裏切っていたんだよ」  顔を歪め、ユウチの首に両手をかける。 「ユウチも僕との約束を守ってくれている……だけど、心は裏切ってる。あいつを求めている。だから、僕に反応しなくなった」  指先に力が込められ、ジリジリと締め上げられる。 「このまま力をいれたら、永遠に僕だけのモノだね」  空気を求めて体中の細胞が悲鳴をあげる。 「……い、いいよ……ころして……」  苦しくて、言葉を続けることが出来ない。  頷くことで意思を伝える。  もともと、生涯をシュウに捧げると決めていた。  シュウのものだ。好きにすればいい。  ホロリとシュウの目から涙が零れる。 「ユウチ、愛してる。すぐに、追いかけるから、先に行って待ってて……誰にも渡したくないんだ……恋を応援してあげられなくてごめん。ユウチの幸せだけを願ってたはずなのに」  シュウ、泣かないで。僕はシュウがいたお陰で最高に幸せだったんだよ……声にならない言葉を呟きながらユウチは意識を手放した。

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