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第8話

◆◆◆◆ 「社長?」 「えっ?」 平蔵は顔を上げる。 「さっきから呼んでたんですけど、どうしたんですか?」 強面のスタッフに心配される。 平蔵は仕事に来ているのだが、どうしてもみーくんが気になるのだ。 1人にしてきたけど……いや、広瀬が昼までは居て様子みてくれるって言ってたし……。でも……、 その考えが繰り返し頭を過ぎって正直、仕事が手につかないのだ。 「い、今何時だ?」 「いま?えーと、あと少しで正午です」 正午!! 平蔵は立ち上がると「ちょっと、マンションに戻る」そう言って上着を手にする。 「どうしたんですか?いつもは近くの食堂に行かれるのに」 「ちょっと、みーくんにご飯……」 と言いかけて平蔵は口ごもる。 「みーくん……死んじゃったじゃないですか?やはり寂しくて新しく飼ったんですか?」 「ま、まあ、そんなとこ」 平蔵は笑って誤魔化す。 みーくんが死んだ後、平蔵は悲しくて仕事が手につかなかった。 よって、社員逹は心配していたのだ。 「一時間で戻るから」 「はい!いってらっしゃい!」 笑顔で見送って貰った。 ◆◆◆◆ 「みーくん、何してんだ?」 平蔵の部屋に居る広瀬はウロウロしているみーくんに声をかける。 みーくんは何かゴソゴソしているのだ。 広瀬に聞かれてジェスチャーで掃除をするポーズをする。 「ああ、一宿一飯の恩ってわけか、みーくんはいい子だな」 広瀬はみーくんの頭を撫でようと手を伸ばす。すると、ビクッと身を縮め仕草を見せた。 それをみて、手を引っ込めると「みーくん、風呂掃除するか?」と笑顔で声をかける。 その言葉に素直に頷く。 二人で風呂へいく。 「スポンジと洗剤は……えーと、どこかな?」 広瀬は洗剤を探そうとした時にシャワーに当たってしまい、シャワーヘッドに残っていた水が服にかかってしまった。 「冷た!!」 肩から袖にかけて濡れてしまった。 これ位なら干せば乾くかな?と広瀬はシャツを脱いだ。 すると、みーくんの視線が腕に向けられた。 「あ、これ?火傷のあとだよ」 みーくんの視線に気付き、そう説明した。 広瀬の腕には肩から二の腕まで、皮膚がケロイド状になっている。 心配そうに広瀬の顔を見るみーくん。 「大丈夫だよ?子供の頃の傷だから、痛くはないんだ」 ニコッと微笑むとみーくんは恐る恐る、その傷あとを触る。 「……これはね、子供の頃、親に熱湯をかけられた時にできたんだ」 広瀬の言葉にみーくんは驚いた顔をする。 「でも、その時に平蔵がね……俺をかばって……平蔵の方が酷い火傷をおってしまった」 更に驚く顔をするみーくん。 「平蔵はね、優しいんだ……多分、君に何も聞かずここに置いているのは……そういう事なんだ。もしかして、君も何か大人に嫌な事をされてるかも知れないって考えているんだと思う」 広瀬は優しい顔でみーくんに語りかける。 「だから、安心していいよ。平蔵は何もしないし、怖い大人じゃないから」 その言葉で静かに頷いた。 「頭、撫でられるの怖い?」 その質問にみーくんは首を振る。 「そうか」 広瀬は笑顔になると、みーくんの頭を撫でた。 今度は嫌がらなかったみーくん。

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