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第10話
みーくんを置いてまた仕事に戻る。
仕事に出掛ける時に玄関まで見送りにきてくれた。
「いってくる」と言うと手を笑顔で手を振るみーくん。
いってらっしゃいの言葉はないけれど、それだけで幸せな気持ちになれた。
そして、気付くのだ家に帰ると待っている誰かが居ると。
ハリネズミのみーくんが居る時も家に帰るのが楽しかった。早く帰ってご飯あげなきゃとか、眺めるだけで癒されるし、それに話かけていた。
決して返事は返って来ないけれど楽しいのだ。
午後の仕事は楽しい気分で終わった。
「お疲れ様」
平蔵は仕事が終わると猛ダッシュで買い物に行く。
みーくんにおでんを作る為だ。
カートに食材をポンポン入れていく。自分の為の買い物はめんどくさいのに誰かの為の買い物は楽しい。
ハリネズミのみーくんのおやつの果物を探す時も楽しかった。
ああ、そうだ飲み物と……おやつ食べるかな?何が好きかなあの子?
アイス?ケーキ?クッキー?悩む。
まあ、アイスは冷凍庫に入れれば大丈夫だし、お菓子類も賞味期限が結構長い。ケーキは好きかどうか聞いてから買おうと思った。
結構な大荷物になった。
◆◆◆
「ただいま」
玄関でみーくんにと部屋にただいまを言う。
ハリネズミのみーくんにも声をかけていた習慣。部屋にただいまというのは小さい頃、「祖母に家には守り神さんがおるけん、挨拶ばせんね!家に人がおらん時は守ってくれとらすよ」と言われたから。それを信じてずっと声をかけていた。
奥からパタパタと走ってくる音。
こんなに嬉しい音だったんだなと気付く。
笑顔でみーくんが玄関に来た。
「おでん作ろう」
袋を見せると笑顔で頷く。
◆◆◆
みーくんは意外にも料理ができるようで手際よく手伝ってくれた。
ちゃんと生活はしていたのかな?
「みーくん、ケーキは好き?」
突然の質問にみーくんはキョトンとし顔を見せる。
「おやつを買う時に迷ってね……若い子って何が好きかな?ってオッサンは分からないんだよ何が好きか」
みーくんは平蔵を指さす。
「えっ?何?俺が好き?……って訳では無いよな?俺が好きなモノか?」
みーくんはウンウンと頷く。
「あー、俺ねえ……うーん、俺は酒飲みだからよ、さきいかとかヨッちゃんとか酢昆布とか……呑んべぇさんの食べ物が好きなんだよ、みーくんはさきいかとか酢昆布食べないだろ?食べるのか?」
平蔵の言葉に頷くみーくん。
「えっ?食べるのか?」
美少年とさきいか。
美少年と酢昆布……似合わない。
オッサンと酢昆布は似合うけれど。
「じゃあ、さきいかとか買えば良かったな」
うんと頷くみーくん。
「みーくんは酒飲むのか?一応、飲める年齢なんだろ?俺はヤンチャだったから未成年の頃から飲んでた……小さい頃はなばーちゃんが作った梅酒をこっそり飲んでた」
懐かしい思い出だ。甘酒も好きだった。
みーくんはちょっとという量を親指と人差し指で表す。
「じゃあ、今晩の晩酌に付き合ってくれるかな?つまみはおでんがあるし」
するとみーくんは嬉しそうに頷いた。
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