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第30話

広瀬に言われ、平蔵がペンと紙を用意して、みーくんはその紙にゆっくりゆっくりと自分にあった出来事を書いた。 手が震えて中断する度に平蔵がその手をぎゅっと握って温めてくれた。 寒いとかじゃなくて……心が……身体が震えてくる。それを平蔵が全力で抱き締めて温めてくれた。 平蔵の話はたまに祖父から聞いていた。 小さい頃に遊んで貰った事もあるし、平蔵の話を聞くのが好きだった。 祖父も平蔵を可愛がっていたみたいで「お前が女の子だったら平蔵を婿にとれるのにな」と言われた事があった。 「平蔵ならお前を理解してずっと守ってくれる……そういう男だから」 祖父がそこまで信頼している男。興味を持たないわけがない。 女の子だったら良かったなあ……って思った事もあった。 だって、女の子なら無条件で結婚出来るじゃないか……って。 きっと、平蔵も女の人がいいに決まっている。そう思っていた。 公園で笑っている平蔵を見て……ああ、僕……この人好き。って再確認してしまった。 祖父に影響されたわけじゃない……笑顔に惚れたのだ。子供みたいに笑う彼に。 平蔵の顔は真っ赤だった。 「平蔵、顔赤い」 広瀬が直ぐに指摘してきた。 「うっさい!」 照れ隠しに怒る平蔵。 「みーくん……辛いなら休むか?」 何度も声をかけてくれる平蔵。本当に優しい人だとみーくんは感じた。 「でも、梅野のじいさん、平蔵をすげえ可愛がってたんもんな」 その言葉で平蔵はポロポロと涙を零した。 思い出したのだ……平蔵がもっと若い頃、凄く世話になった。 豪快な人で優しくて……男らしい人だった。 その人が少しづつ老いていくのを見ていた。 いつだったか「気持ちだけは若いままなんだが身体がどうもついてこない……老いていくっているのは寂しいなあ……知ってるか平蔵……人は生まれ落ちると死に向かって生きていくんだ、生まれ落ちた瞬間から……永遠の命なんてないからな。それに動物は若い時よりもシニアの年数が長いんだ、若い内はほんの一瞬だ、その一瞬を大事にしろよ」と言ってた事があった。 遊びも色々と教えて貰った。温かい人だった。 「平蔵……」 広瀬が慰めようと手を伸ばした瞬間、みーくんが平蔵の涙にキスをした。 涙というより頬に。 平蔵は驚いてみーくんを見た。 みーくんは紙に『 おじいちゃんの葬式で本当に泣いていたのは平蔵とほんの少しの人だけだった。平蔵が1番泣いてたけど』と書いて微笑んだ。 「見てたのか」 その言葉に頷くみーくん。 『 おじいちゃんの為に泣いてくれてありがとう』と紙に書いた。 「いいんだ……本当にいい人だったから、優しくて温かい人だったよ、みーくんのおじいさんは」 平蔵の言葉に頷くみーくん。きっと、みーくんが1番知っているだろう。その優しさを。

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