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第32話
自分が言う事に大人も友達もいいなりになる。
嫌だとは言わない。それは自分の事が好きだからだと思っていた。けれど、小学校高学年に上がった年。ささいな事で友達と言い争いになった。
約束が友達の親の都合でダメになった。ただ、それだけ。また今度ね!という気持ちにその時はなれなかった。
いつも、自分の言う事に従うのに。
従う……この時、こんな風に思ってはいけなかった。従うなんてまるで自分が1番偉いみたいな言い方。今まで友達がしてくれた事を従うという言葉に切り替えてしまった。最低な言葉。
自分は調子に乗っていたのだとこの時思った。ささいな約束がダメになっただけでその友達に「死んじゃえ」と耳元で言ってしまった。
大きな声で言うのではなく、その子にだけ聞こえる声で。しかも本気でそう思ってしまった。ほんの一瞬……本気で友達の死を望んだのだ。
次の瞬間……その子は窓から飛び降りた。
急に走り出してなんの躊躇もなく。まるで滝から度胸試しみたいに飛び込むようにポーンと。
一瞬の出来事でクラスの皆は動けなかった。もちろんみーくん本人も。
ドサッという音がして、外から悲鳴が聞こえてからようやく正気に戻れた。
その後は授業は中止。
友達は緊急搬送されて命は助かった。
意識が戻った友達は何も覚えていなかった。どうして病院にいるのか不思議そうだったらしいと後から担任の先生に聞いた。
年頃の子供達だから情緒不安定にもなるとスクールカウンセラーが置かれた。
みーくんは自分のせいだと確信した。
その時から色んな事を疑問に思うようになってきた。
今まで……大人や友達が自分が言う事をやってくれるのは好かれているわけではなくて……言葉に何か力があるのかな?と。
それからあまり学校に行けなくなった。
もしかしたらまた友達を傷つけてしまうかも知れないから。
勉強は祖父が教えてくれた。
そして、その時に祖父から「お前のせいじゃないよ……ほんの少しだけ感情をコントロールする事ができるようになると上手くいく」と言われた。
祖父もみーくんと同じ力を持っていたのだ。
自分の事を分かってくれる人が側にいる。それだけで救われた。
両親からも距離を置くようになった。好きな人達を傷つけてしまうかも知れないから。
祖父の家で暮らすと言っても心配しては訪ねてくる。
心配されていると分かってはいるけど……どうしても帰れない。
力の事は両親は知らない。
もし、友達を殺しかけたと知ったらきっとショックを受ける。
どうしても一緒に暮らせない。
そして、あの日も……迎えに来てくれた。
帰らないと言っても……諦めつかないのか追いかけてきた。
信号無視して走る自分を追いかけてきた両親に危ないから「止まって」と大声で叫んでしまった。
その言葉に本当に止まって……そこに車が突っ込んできたのだ。
もし、止まってって言わなかったら……渡りきっていただろうし、気付いて逃げられた。
今度は友達のように助からなかった……。
それからはパニックになって……後の事は覚えていない。
もう……言葉にしてはいけないと思った。
自分が話せば誰かが死ぬんだ。とそう思った。
だから言葉を封印した。
祖父とも筆談で話すようになった。
祖父が頭を撫でながらお前のせいではない。といつも言ってくれたから生きてこれたかも知れない。
笑顔を忘れそうな時に平蔵を見かけた。
無邪気に子供みたいに笑っていて。大人なのに……凄く可愛くて。
みーくん!と名前を呼ばれて思わず返事しそうになった。
みーくんは連れていたハリネズミの名前。
愛情タップリに名前を呼んで笑う平蔵。
昔……自分も両親に名前を愛情タップリに呼んで貰って笑っていた事を思い出す。
平蔵を見ると幸せになれたのだ。
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