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第4話 高校三年生②

 佳孝と教室を出ようとした時に同じクラスの友人の幾人かが声をかけてきた。  「あ、大雅!俺らこれからカラオケ行くんだけど、一緒に行こうぜ」 ちらりと佳孝の方を見る。別に以前から約束していたわけではない。今ここに居る数人の友達を優先しても問題はないはず、佳孝なら大丈夫。これくらいのことで佳孝は怒ったりはしないはず。  「カラオケ行く。ごめん、本屋はまた今度な」  「……そう」  大雅は佳孝をひとり残して友達と教室を出て行った。佳孝は常に何も言わない。否定も肯定もしない。後回しにしてもその後もめることもないそう大雅は考えていた。その日はいつものように面白おかしく時間を過ごして、帰りついたのは夜遅い時間だった。  独り暮らしのマンションに帰る。大雅の父親は保険会社に勤務している、そのため転勤族なのだ。同じ街にいるのは長くて五年、短ければ三年。何れは別れる、だから親友と呼べる人を作らない、近くなり過ぎない。あいつ面白いやつだったなと思い出してもらえればいいと大雅は考えていた。新しい街に引っ越すたびにすぐに周囲に馴染む必要があった。無駄に伸びたコミュニケーション能力も繰り返される転校のなせる業だろう。  そしてこの街にもどうせ長くはいないと浅く広い友達関係を築いていた大雅に二年前いつもとは違う選択肢が示されたのだ。都内から地方に父親が転勤になると決まり、入学したばかりの高校を転校させるデメリットを親が考えたのだ。大雅は東京に独りで残るという選択肢を与えられた。別に転校するのは構わなかったが、都内の大学進学を希望していたこともあり、大雅は残ることを決めた。それ以来の独り暮らしだ。  「ただいま」  返事のないことが分かっていても、とりあえず部屋の中に声をかける。しんと静まり返った空間に自分の小さいため息が大きく響いた。二年目になり慣れた独り暮らしだが、時折ふと誰もいないという事実が寂しさを部屋の中に振りまいていく。  そのとき何故か佳孝のことを思い出した。今日あいつは一人で本屋に行ったのだろうか。悪いことをしたのかもしれないと大雅は考えた。

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