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第5話  高校三年生③

 翌朝学校へ着くと同時に、大雅は無意識に佳孝の姿を目で探していた。話をしたいと思っていたのは間違いない。その時後ろから肩を軽くたたかれた。佳孝かと思い振り返ると同にに「昨日は……」と話しかける。そこに立っていたのは、昨日一緒にカラオケに行ったクラスメイトだった。  「昨日?ああ、カラオケな面白かったよな」  「は?お前が馬鹿でかい声で歌うから、俺まだ耳鳴りがしている気がする。お、佳孝!おはよう」  いつもより少し遅く登校してきた佳孝の姿を玄関口で見とめた。探していた相手を見つけて嬉しくて少しいつもより大きな声が出た。  「おはよう」  いつものように挨拶が出来たはずだった。けれど何かが違う。佳孝は視線さえこちらに向けることはなく言葉だけを残して大雅たちの横を通り過ぎて行った。  「ちょ、なんだあの態度?大雅が気ぃ使って声かけてやってんのにさあ、分かんねえのあいつ?」  「いや、別に俺は……」  「気を使っているわけではない」と友達の発言を否定しようとした時に、振り返った佳孝が答えた。聞こえて欲しくない言葉がその耳に届いたのだ。  「大丈夫だから」  「佳孝!」  「大雅、放っておけよ。あいつと話していて何が面白いんだ?本しか読んでないし、いつも地面しか見てないんじゃねえ?」  「ははは」と軽く笑ってその場をやり過ごした、ここで波風を立てても何の得にもならない。  佳孝の「大丈夫」という言葉がもつ意味を深くも考えずに、ただ機嫌が悪いのだろうとその時やり過ごしたことを大雅は後々後悔することになる。  「佳孝、昨日は悪かった。今日の放課後さ……」  「大丈夫」  昼休みにいつものように本を手にして教室を出て行こうとした佳孝に声をかけた。話し始めた大雅の言葉を一言で切り捨てると、佳孝はその場を離れていった。機嫌が悪いにしてもあの態度はやり過ぎだろうと腹が立ち机を蹴飛ばした。がごんと大きな音がした。  「どうした、大雅?」  「ああごめん、間違って机を蹴っただけだから。自分の足が思っていたより長かったんだなこれが」  いつものように級友が笑う。大雅は佳孝の後姿を見送りながら一緒に笑ってその場を誤魔化した。  その日から何故か佳孝との接点が消えてしまった。

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