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第6話 高校三年生④

 「なあ、夏休み……大雅?お前人の話を聞いている?」  「……あ、ごめん。何だった?」  「どうした?何だか変だぞ」  「ごめん、考え事をしていて」  「なに?悩んでんの?珍しいじゃん、相談に乗っちゃうよ」  「いや、うん。佳孝……いや何でもない」  「そういや、仲良かったよな。なんであんな大人しいやつと一緒に居るのか分からなかったけれど。最近一緒に居ないよね。まあ、あいつは一人でも平気そうだし」  なぜ一緒にいるのか?そう言われて考えた。いつ仲良くなったのかさえ覚えていない。気が付いたら一緒にいた。この街に引っ越してきたのはちょうど中学に入学するタイミングだった。いつもの年度途中の転入とは違って気が楽だった。皆が新しい生活を始める中で同時にスタートできたのだ。気負わなくてもたくさんの友人も出来た。  だからいつからどうやって佳孝と一緒に居ることになったのか覚えていない。気が付いたら隣にいた。そして他に親しい友人もいない佳孝には自分しかいない、離れることは無い考えていた。ところがその佳孝が消えたのだ。  あの日以来、視線はいつも佳孝を探している。けれども肝心の相手がどこにも見当たらない。授業の合間の短い休憩時間さえ教室からふらりと出ていく。追いかけようにも出口に近い位置に座っている佳孝は合図と同時に消えている。二週間過ぎる頃には理由の分からない苛立ちに包まれていた。    「なあ、佳孝見なかった?」    「さっきまで図書室に居たけど」  佳孝とは同じクラスに居るのに接点が消えた。図書室かと向かおうとした時に後ろから誰かに腕を掴まれた。大雅は作り笑いを仮面のように顔に乗せて振り返った。  「大雅、今日の放課後さ」  「ごめん無理」  友人の言葉にかぶせるようにして返事をする。  「まだ何も言ってねえし。どうしたんだよ、最近付き合い悪いってみんな言ってるぞ」  遊びに行く気分じゃない。落ち着かないのだ。その時目の端に探していた姿が映った。  「佳孝!」  廊下の角を曲がろうとした姿を追いかけようとした大雅の肘が掴まれた。  「大雅、おまえ人が話している途中でそれは無いんじゃねえ?」  「ごめん。いや、違う。悪い」  行き場のない苛々が身体の中に(おり)のように溜まっていく。何に腹を立てているのか分からないのに腹が立って仕方がないのだ。どうしたらこの想いから解き放たれるのか教えて欲しかった。  「もういいよ。でも、おまえ最近おかしいぞ」  そう何かがおかしい。けれども自分がおかしい理由は見当たらなかった。

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