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第2話 大雅と佳孝

 「門脇さん、もう今日はあがりですか?帰り一杯ひっかけて帰りませんか?」  手をくいっと口元で動かしながら、同僚が誘ってきた。プレミアムフライデーという流行りものに会社が乗ってくれたおかげで、金曜日に早く帰ると言う以前ならあり得なかった楽しみが増えたのだ。  「いや、今日は約束あるからね。まっすぐ帰るよ」  「ああ、デートですか?羨ましいですね」  「まあね」  今日は佳孝のために日本酒を買って帰る。佳孝も大雅と同じで辛口の酒が好きだ。嗜好も似ているし、映画の趣味も似ている。一番大切な善悪の判断の基準も同じだ。そうでなければ、こんなに長い時間を一緒に過ごすことはできなかっただろう。  なにもない日常の繰り返し、それが楽しいと思えるのは幸せなことだと昔父親に言われたことがあった。その幸せに気が付いたのは最近になってようやくのことだった。毎日が穏やかに過ぎるこの充足感。きっと今朝と変わらない様子で、家で待っているのである恋人を想って大雅の頬は緩んだ。  こうやって二人で暮らせるようになるまでそれなりの時間とそれなりの犠牲は払ってきた。失ったものも多いし、別れを選択すべきか葛藤したこともある。落ち着くところに落ち着くものだと今は思っているが、あの頃は青かったと懐かしく大雅は思い出していた。  そして、その若い日々も決して苦々しいものではなかったと思い起こしていた。

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