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第3話
楽しく酒を飲む空気でも無くなってしまった二人は、交互に風呂を使った後で布団を敷く事にした。押入れから引っ張り出したお客様用の布団に白いシーツを掛ける紅葉は、貸してやった白Tシャツに着替えた清涼が気になって仕方ない。
艶やかな黒髪を下ろしてタオルで水気を拭き取っているしどけない後ろ姿。鏡に映った湯上りの頬が艶っぽい。
「ドライヤー使えば。長いからタオルじゃ乾かないだろ」
そうは言ったものの清涼は使い方が分からない風で、ウィッグを外せばいいのに近くに来いとの誘いだろうか。後ろから近付いて長い黒髪の間に指を差し込んだら、驚いた事にウィックでは無くて地毛だった。しかも清涼は吹き出した温風に驚いて逃げた。
「じっとして」
指を艶やかな髪に風に当てる。サラサラと流れる髪を揺すっているうちに、ほぅっとため息を吐いた清涼が気持ち良さそうにうっとりとしている反応がまるで犬。
そんな事より紅葉の頭の中はもうセックスしか無い。出会ったばかりの上に和尚に叱られてすっかり冷めたのに、清涼を見ればまた誘われる。どうせ今晩限りなのだからと最初の目的を達成したくなる。何故こんなにもと自分でも分からない。
「終わり」
笑って後ろから抱きしめるとシャンプーの香りがする。
「寝ようか」
この後が問題だ。
「ねぇ、いいの?」
含みを持たせて合わせた視線の先で、ゆっくりと微笑んで誘う。すると清涼もふふんと笑う。
「交わいたかろう、なれどこれは契約。肝に銘じよ」
「契約?」
「我と交わえば我の手足となって尽くすと心得よ。妖狐を主にする覚悟はあるか」
にっと横に引かれた赤い唇。真っ黒で大きな瞳が怪しく挑んで来る。
「あるある」
願ったりかなったり。ふふーんと鼻歌まじりに清涼を布団の上に押し倒せば、待てとストップをかけられた。
「何故に我が組み敷かれる」
「どっちでもいいだろ、そんな事」
その目を瞼に軽くキスする事で塞いで、着せたばかりのTシャツをさっさと剥ぎ取った。華奢な身体が脆い壊れ物のよう。乱暴には出来ないと丁寧に肋骨の形に沿って指をなぞらせていたら、久しぶりの人肌の温もりにドキドキして来た。下に居るのは頭の中身が変だけど外見だけなら好みの美人で、めちゃくちゃ興奮する。
「ならぬ、逆はならんっ……んっ、んんっ」
喋ってる途中で指先が乳首に到達した。
白い肌の上に淡い薄紅が咲いたような小さな乳首。こしょこしょくすぐったのが気持ち良かったらしい。気を良くした紅葉は唇を清涼の頬に滑らせて、そのまま顎のラインを辿って耳元に口付けた。
「離せっ、人間風情が我を汚すことならん」
「お前そのなりで俺をやる気だったのかよ、大人しくしてな」
紅葉の方が十センチ近く背が高いし、何より身体の厚みが違う。日々雑巾掛けで鍛えている細マッチョの紅葉と一見女にも見える華奢な清涼では体格が違って、乗っかってしまえばひっくり返せないだろう。
腰を清涼の腰に擦り付けて、観念しろとどんな状態なのか知らしめてやった。
「主君が家来に犯される話など聞いた事が無かろう、逆じゃ!」
「そんな事どうでもいいから顔上げて、こっち見て。清涼可愛い」
「なにを申せばっ、そのようなっ……」
可愛いに反応して真っ赤になった清涼は両手で顔を隠してしまった。恥ずかしいのかイヤイヤをするように頭を横に振って後頭部を枕に擦り付けている。
「なんで?清涼可愛い」
可愛いと言うと目に見えて照れる清涼が可愛い。舐めて溶かしてグズグズにしたい。
「見て、こっち」
笑いながら囁くと指の間から覗いて、目が合うとぴたっと指を閉じてまた隠れてしまう。
「なにそれ、可愛い」
仕草が可愛いくてまた笑ってしまう。
「そなたは笑うてばかり。我は憎らしいか」
「憎らしい?あぁ」
この場合の憎らしいは可愛いだ。だから清涼は自分を可愛くは無いと怒っていて、分かり辛い。
「喋り方、もうちょっと現代ナイズ出来ない?千年前から石になって時代の流れを見てたなら出来るでしょ」
清涼は顔を隠したままコクンと頷いた。言うことをきかせるコツは千年前から妖狐をやっているという設定に合わせてやることらしい。
膝の裏に手を当てて開かせて、怖いと逃げたがるのをキスでなだめて後ろをほぐして行く。清涼の呼吸が少しずつ荒く早くなって、すすり泣くような控え目な音が漏れる。
「いいよ、大丈夫。怖く無いよ」
片方の腕を目の上に乗せて顔を隠し、まな板の上の鯉状態になっている様が痛々しい。そしてエロい。シーツに投げ出されたもう片方の白い腕の内側に浮いた青い血管とか、呼吸の度に上下する薄い胸とか、二の腕の柔らかい所に唇を当てて吸うと赤く色付いた。見えている小さな唇が早い呼吸のせいで乾いていたから、舌先で舐めた。
「あ……」
「唇にキスしてもいい?」
清涼の赤い舌がチラリと覗いて、誘われるままに唇を塞ぐ。
「んっ、んん……」
絡めた舌の滑りと生々しさに頭の中が沸騰しそう。我慢が効かずに押し当てたペニスで清涼の中に押し入ると、きつい締め付けに阻まれた。
「挿れさせて、清涼」
先っちょだけだから状態で留め置かれてしまって、紅葉もきついけれど清涼はきっともっとしんどい。苦しげに頭を振りながら金魚みたいに口を開いて息を吸っている。清涼が動く度に長い黒髪が白いシーツを流れている。しゅるしゅる、しゅるしゅる。
「痛い?」
「すっ……」
「す?」
「ごいっ」
何がと笑ったら涙目になってる大きな目で睨まれた。
「笑ってる場合では……ああっ」
喋ってる途中で今だと突き入れたら、中を満たしたローションの滑りでぐっと入った。
「紅葉、待たれっ、我は……あっ、苦しっ」
「可愛いな、もう食べたいくらいに可愛いくてたまんない」
可愛い。その言葉に清涼の中が反応してキュッと締まる。熱いくらいの体温に包まれて、溶けたローションがぬるぬると満たす中の感触がたまらない。このまま頂点まで上り詰めたい衝動を必死に殺してゆっくりゆっくり出し入れを始めると、くちゅくちゅと淫猥な音が畳の部屋の空気に響いた。それがやがて激しくなって、着いては離れる卑猥な音になる。
はぁはぁと重なる二つの呼吸音。熱いのは皮膚なのか清涼の中なのか、胸に閉じ込めた全部が熱い。口付けて舌を絡めて、この人を奪ってしまいたいと唾液を飲み込ませた。
「やっ、紅葉」
「大丈夫だよ」
片足の太ももを抱え上げて腰を進めて、止まってまた進んでと繰り返すうちに奥でペニスの先端に当たる引っ掛かりを感じて、ここかと突いてやる。
「あぁっ」
「いいだろ」
「嫌、この身がっ……や、紅葉っ」
「ゾクゾク来る?」
先端をカクカク引っ掛けてやると、清涼の腰が自然と揺れ始める。乱れて白い肌が朱色に染まる。
「んっ、あ、やっ……」
「嫌?何が嫌?」
「声っ」
「あぁ……聞かせて、興奮する」
それでも恥じらう声は途切れ途切れで、押さえきれないもどかしさに清涼が耳まで真っ赤になっている。
「清涼の全部ちょうだい。中、すげー気持ちいい」
「や、あ、あっ、紅葉待たれ、あっ、あっ」
待てと言われてももう遅い。清涼の中を進んで引いて、全体を包み込まれる感触がたまらない。身体をしならせて逃げようとするのを離さないと抱きしめて奪いに行く。両手で腰を掴んで浮かせて、結合部を見ながら出し入れする。
「や、嫌だ紅葉、見てはならん」
抵抗出来ないままに縋るか弱い眼差しを、紅葉は下目に笑って自分の唇を舐めながら見返した。
「エロ……」
「んんっ」
「ほら、こっちもいいだろ」
重ねた腹の間から手を差し込んで清涼のペニスを握ってやると、途端に先走りが溢れて来た。
「ああっ、もうっ、出る。紅葉出る」
「まだダメだよ」
中を突き上げながらペニスの先端を人差し指の腹で押さえて、小さな尿道口をえぐる。
「いやぁ、出るっ出るっ」
必死に頭を振る清涼の長い髪が白いシーツに散って、喘ぐ姿がたまらない。言いつけを守って我慢しているしかめっ面がたまらない。この美しい人を組み敷いて乱れさせている征服感がたまらない。腰を動かす度に跳ねる身体を押さえつけて、清涼の全部が与えてくれる快感に耐える。
「やっ、無体なっ、あぁもうっ」
「中に出すよ」
「それは、それは、あぁ……」
「ほら、イけよ」
奥を突き上げながら手でペニスを擦ってやると嬌声を上げながら清涼が先に果てた。ぬるりと掌に感じた滑りと中の締め付けに、紅葉は喘ぐ清涼の唇を深く奪う。
「んんっ……」
「んっ……」
遠慮無く中に注いで、最後は塗り付けるように腰を回してやった。
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